今回はドローインとブレーシングについて話したいと思います。
ドローインとはhollowing(ホローイング)とも呼ばれるもので、
腹横筋を選択的に収縮させるトレーニングとして知られてます(内腹斜筋も多少収縮してしまうみたいですが)。
ドローインは息を吐きながら行い、腹横筋だけの収縮により腹腔内圧を高める方法です。
一方でブレーシングは、腹横筋だけでなく腹筋群全てを共収縮させるトレーニングで、
イメージとしては、お腹が殴られるときにお腹に思いきり力を入れるような感じです。
ブレーシングはドローインとは反対に、
息を吸いながら行い、横隔膜の収縮も加わることでさらに腹腔内圧を高める方法になります。
ブレーシングはスクワットなど高重量を扱うトレーニングをやるときに、体幹を剛体化させる方法としても頻繁に用いられています。
ドローインとブレーシングの違いを簡単に下の図で示しておきます。
ネットを見ると、
「ドローインをマスターして腰痛を予防しよう!」
などの記事が山ほどみられますが、
本当にドローインが腰痛を予防するための最善の方法なのか?
ブレーシングの方が効果的じゃないの?
そんな疑問に対して答えてくれた論文があったので共有したいと思います。
論文紹介
共著者には、腰痛の専門家として知られるStuart McGill博士が載っています。
方法
【対象者】
8人の健常男性(20~33歳)
【プロトコル】
被験者は立位姿勢で、
安静(5秒間)→ドローイン(5秒間)→安静(5秒間)→ブレーシング(5秒間)→安静(5秒間)
のプロトコルを行いました。
【測定項目】
➣筋電図の計測
腹直筋、内腹斜筋、外腹斜筋、胸部脊柱起立筋、腰部脊柱起立筋、広背筋、多裂筋の筋活動を筋電図を用いて計測してました。
➣運動学測定
エクササイズ中の腰部の動きも 3Space Isotrak unitという装置を用いて測定されました。
注意点として、今回の研究では、
腹横筋の活動は内腹斜筋の活動から間接的に算出されたと書かれていました。
またこの論文の面白い点として、
ブレーシング時に各筋群がもし活動しなかったら、脊柱の安定性がどれだけ下がるかをシミュレーションで測定していました。
つまり、ブレーシング時の脊柱安定性に、各筋群がどの程度貢献しているかを測定していました。
結果
主な結果は以下の通りです。
- 脊柱の安定性はブレーシングをしたときの方がドローイン時よりも32%高かった。
- シミュレーションの結果、ブレーシング時の各筋の貢献度は内腹斜筋、外腹斜筋、腹直筋の順で高く、腹横筋の貢献度は非常に低かった。
考察
以上の結果より、ドローインを行うよりもブレーシングを行った時の方が脊柱の安定性が高まることが示されました。
この要因としては、
単純にドローインよりもブレーシングの方が多くの筋が活動していることが考えられます。
またブレーシングは、腹筋群だけでなく背部の筋の活動も高めて安定性を高めると書かれてました。
たしかに、実際にやってみると背中にも自然に力が入ります。
でも、正直ここまでは大体予想される結果だったと思います。
この論文の面白いところはここからで、
シミュレーションから求めた結果によると、
ブレーシング中に腹横筋の関与を仮になくした場合、脊柱の安定性はほとんど変わらないことが分かりました。
つまり、
「ドローインをマスターして腹横筋を鍛えて腰痛を予防しよう!」
という方法はあまり効率的ではなかったのかもしれません。
実際に著者は本文中で、
”However, many therapists and coaches, in our experience, recommend “drawing in” of the abdomen in an effort to increase stability. Based on our results, this appears to be misdirected.”¹
(しかしながら、我々の経験上、多くのセラピストやコーチは安定性を高めるために”ドローイン”を推奨しています。私たちの結果からすると、これは誤った方向に向かっているようです)
と述べています。
ただ、今回の研究では腹腔内圧の測定がされておらず、
腹横筋が腹腔内圧を高める役割を担っていることを考えると、腹横筋がまったくもって重要でないということは言えないと思います。
なので結局のところ、
脊柱の安定性という観点に関しては、特定の筋だけが重要!ということはなさそうです。
まとめ
今回の研究をまとめると、
- 脊柱の安定性を高めるにはブレーシングが推奨される。
- 腹横筋だけでなくて、すべての筋を鍛えよう!
となります。
今回は長くなってしまいました。
僕は端的にまとめる力が足りないのでブログを書きながら力をつけていきたいと思います(笑)
参考文献
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Grenier, SG., & McGill, SM. (2007). Quantification of lumbar stability by using 2 different abdominal activation strategies. Arch Phys Med Rehabil, 88(1), 54-62.