トレーニング指導をしている指導者の多くはメニューの中にプライオメトリックエクササイズを取り入れていることかと思います。
しかし、長期的にプライオメトリックエクササイズを行うことでどのような適応が身体の中で起こるかについて、しっかりと説明できる方はもしかしたらあまり多くないかもしれません。
僕自身もその一人で、「長期的にプライオをやることでどのような適応が起こるんですか?」
と質問されたら、以前は自信をもって答えることがおそらく出来ませんでした。
そこで今回のブログでは、僕自身の学習もかねて、長期的にプライオメトリクストレーニングを行った時に筋腱複合体の振る舞いがどのように変化するかを調査した研究を紹介しようと思います。
トレーニングはしっかりと根拠を持って指導するのがベストだと思いますので、今回のブログで紹介する論文を通して、プライオを処方する指導者の方が今よりも自信をもって指導に臨めるようになればと思います!
先に言っておきますが、少し内容が複雑で難解の部分もあるので、ブログを読む時間がない方であったり、指導者の立場でない方はまとめまで飛んでもらって大丈夫です(笑)
読む時間を取れる方は最初から読んでもらえればと思います!
目次
論文紹介
今回紹介するのはこの論文です。
方法
被験者
21名の男性がこの実験にしていました。
被験者はランダムにトレーニング群(n = 11)とコントロール群(n = 10)に振り分けられました。
なお、参加した被験者全員は普段プライオメトリックエクササイズを行う習慣がなかったとも書かれていました。
トレーニング介入
トレーニング期間は12週間で週3回のトレーニングが行われました。(トレーニング期間中1週間の休息期間も設けられていました)
トレーニング群の被験者は片脚でのデプスジャンプ(以下、DJ)を10回10セット実施しました。
DJは下のような傾斜台で行われ、フォースプレート接地時には膝の屈曲を最小限に抑え、出来るだけ接地時間は短くするように指示されていました。
(Hirayamaら(2017)p2より引用)
測定項目
トレーニング介入前後に測定された主な測定項目は以下の通りです。
- DJ中の床反力
- アキレス腱のスティッフネス(※ある一定の腱の伸張に対する腱の抵抗力)
- DJ中における内側腓腹筋、前脛骨筋の表面筋電図
- DJ中における内側腓腹筋の筋束および腱の長さ変化
また、DJ中に測定された下3つの項目は以下の4つの局面に分けられて考察されました。
1st:減速期前半、2nd:減速期後半、3rd:推進期前半、4th:推進期後半
ここでいう減速期とは、フォースプレートに足部が接地してから、足関節を背屈しながら衝撃を吸収している局面で、推進期は減速期終了後に足関節を底屈させ、上向きに跳び上がる局面のことをいいます。
結果
主な結果を書いていきます。
DJ中の床反力について
(結果①:Hirayamaら(2017)より引用し一部改変)
上のグラフは、トレーニング群におけるDJ中の床反力の結果になります。
トレーニング群は減速期後半(2nd)と推進期前半(3rd)の局面の床反力がトレーニング介入前と比較してトレーニング介入後で増加しています。
コントロール群の結果に関しては,グラフが載せられていませんでしたが、どの局面においても床反力の変化は観察されなかったと結果の欄に記載されていました。
アキレス腱のスティッフネス
(結果②:Hirayamaら(2017)より引用し一部改変)
次にトレーニング介入前後のアキレス腱スティッフネスの変化を示したグラフです。
アキレス腱のスティッフネスに関しては、トレーニング介入後トレーニング群のみ有意に向上する結果となりました。
DJ中の筋および腱の収縮速度
(結果③:Hirayamaら(2017)より引用し一部改変)
こちらのグラフでは、DJ中における各局面での内側腓腹筋の収縮速度を表しています。
0から上に棒グラフが伸びている場合は伸張性収縮を、下に伸びている場合は短縮性収縮を行っていることを表しています。
つまり、0に近ければ近いほど等尺性収縮に近づくという見方になります。
上のグラフを見てまずわかることとして、1st局面にて介入前では伸張性収縮をしていたのが、介入後では短縮性収縮に収縮様式が変化しています。
また、3rd局面を見てみると、介入前では短縮性収縮をしていたのが、介入後には等尺性収縮に近い収縮様式へと変化しています。
(結果④:Hirayamaら(2017)より引用し一部改変)
次にアキレス腱のグラフを見ていきます。
ここでは3rd局面のアキレス腱の短縮速度がトレーニング介入後に有意に増加しているのが分かります。
ちなみに、コントロール群はどの局面においても筋および腱の収縮速度に変化はみられなかったと記載がありました。
DJ中の筋活動
次にDJ中における内側腓腹筋と前脛骨筋の表面筋電図の結果を示します。
最初に主動筋である内側腓腹筋のグラフを見ていきます。
(結果⑤:Hirayamaら(2017)より引用し一部改変)
トレーニング介入後に1stと2nd局面の筋活動が増加し、3rd局面では低下しているのが分かります。
一方で前脛骨筋を見てみると、
(結果⑥:Hirayamaら(2017)より引用し一部改変)
トレーニング介入後に全体的にみて筋活動が低下しているのが分かります。
考察
今回の研究はたくさんの結果が示されており、解釈するのに苦労しますが、
できるだけかみ砕いて、重要な点だけをわかりやすく伝えていきます。
減速期後半(2nd)で床反力が向上したのはなぜ?
まず、減速期後半(2nd)の床反力がトレーニング介入後に向上している要因について考えていきます(結果①)。
これについては、まず、DJ中における表面筋電図の結果を見てみましょう(結果⑤)。
結果⑤で示されているように、同じ減速期後半(2nd)にて主動筋である内側腓腹筋の筋活動がトレーニング介入後に高まっています。
彼らはこの筋活動の増加が減速期後半で床反力が向上した主要な要因であると述べています。
しかし、DJ中の筋の収縮速度を見てみると、減速期後半(2nd)での収縮速度に変化はみられませんでした(結果③)。
「え、主動筋の筋活動が向上したなら、短縮性収縮の収縮速度って上がるんじゃないの??」
と思った方もいらっしゃるかもしれません。
彼らは内側腓腹筋の筋活動が向上したにも関わらず、収縮速度が変化しなかったのには、
腱のスティッフネス向上が関係していると述べています(結果②)。
どういうことでしょうか。
図を使って具体的に話していきます。
そもそも、アキレス腱と腓腹筋というのは、上の図のように直列配列している構造をしています。
この様な構造をしているため、筋が短縮性収縮をすると同時に腱が引き伸ばされます。
その際、もし腱のスティッフネスが高い場合(硬いゴムをイメージしたらわかりやすいと思います)、筋が収縮をしようとしたときに直列配列している腱が抵抗して、筋は長さを変えにくくなります。
この筋の長さが変化しずらい状況によって結果的に筋の収縮様式が等尺性収縮になったと考えられます。
力‐速度関係から考えて、等尺性収縮というのは短縮性収縮よりもより高い力を発揮するため、
著者らはこのような収縮様式の要因も重なって、減速期後半での高い床反力に繋がったと考察していました。
また、減速期で筋がしっかりと等尺性収縮を行えていることはもう一つのメリットを生み出します。
それは、筋が等尺性収縮を行うことで直列配列している腱が筋の代わりとなって伸張するようになることです。
下の図で詳しく説明します。
もし、減速期後半に筋が緩んでしまうと、左の図のように、筋腱複合体が伸びる割合のうち筋の伸びる割合が増えてしまいます。
一方で、筋が等尺性収縮のようにしっかりと緊張している状態だと、右の図のように、筋腱複合体が伸びる割合のうち腱が伸びる割合が多くなり、結果として腱のバネを効果的に使えるようになります。
右の図のようにしっかりと筋を緊張させることができていれば、腱は多くの弾性エネルギーを蓄えることができ、それが引き続く推進期の大きなエネルギー放出に繋がります。
推進期の腱の収縮速度が向上した
結果④を見ると、推進期前半(3rd)の腱の収縮速度がトレーニング介入後に増加しているのが分かります。
一方で、主動筋である内側腓腹筋の筋活動は同じ局面にて低下してしまっています(結果⑤)。
これは何を意味しているんでしょうか?
彼らはこの点に関して、腱が収縮するタイミングでの筋活動低下は、腱の素早い収縮を助けると述べています。
下の図で説明します。
左の図で示したように、筋が短縮性収縮することで、直列配列する腱は引き伸ばされてしまいます。
なので、腱が収縮するタイミングで直列配列している筋が活動してしまうと、腱が短縮しようとしてるのを邪魔してしまい、効率よく腱を収縮させることが出来ないのです。
一方で、右の図のように腱が収縮するタイミングで筋の活動が抑えられた場合、腱は筋の収縮によって伸張する方向に力が働かず、思いきり減速期で蓄えた弾性エネルギーを放出することが出来るのです。
著者らも考察の中で以下のように述べていました。
Elastic recoil of the tendon counters muscle shortening since it was positioned as a series elastic component within the muscle
腱は筋中における直列弾性構造として位置づけられるため,腱によるはね返りは筋が短縮するのに対抗する (Hirayamaら(2017)p6-7より引用)
これを基に今回の結果に戻ってみると、推進期前半(3rd)でアキレス腱と直列配列している内側腓腹筋の筋活動が低下しているのは(結果⑤)、腱が蓄積した弾性エネルギーを思いきり発揮するための好ましい適応だったと解釈することができます。
拮抗筋の筋活動も低下していた
また、拮抗筋である前脛骨筋の筋活動が、長期的なプライオメトリックエクササイズによって推進期前半(3rd)以外の局面で低下していることも興味深いです(結果⑥)。
レジスタンスエクササイズでも主動筋の筋力を高める1つの要素として、拮抗筋の筋活動抑制が挙げられます。
この結果から、長期的なプライオメトリクストレーニングによっても、効率的に主動筋の力発揮が伝達されるために拮抗筋の筋活動が抑制される適応が生じることも示されました。
じゃあ結局、プライオメトリクストレーニングを長期間やると筋腱複合体はどのような振る舞いをするようになるの??
ここまで長々と難しそうなことを話してきましたが、
結局、僕も含めて皆さんが気になるのは、
「じゃあ結局プライオメトリクストレーニングやると筋腱複合体はどうなるのさ!」
っていうことかと思います(笑)
なので早速今回の結果を図を交えてまとめていきます。
【減速期】
- 筋の活動が高まり、腱が筋の代わりに伸張しやすくなった(弾性エネルギーを蓄えやすくなった)。
- 等尺性の筋収縮をするようになり、高い力発揮をするようになった
- 拮抗筋の神経筋活動も抑制されるようになった
【推進期】
- 減速期に腱で蓄積された弾性エネルギーが素早く放出されるようになった(腱の収縮速度の向上)
- 主動筋の筋活動も抑えられ、腱の収縮を邪魔しないような適応になった
- 拮抗筋の神経筋活動も抑制されるようになった
下の図でまとめました。
ただ、上に示したような適応を引き起こすためには、毎回のトレーニングで意識しなければいけないことがあります。
それは
「接地時に足首を固めること」
です。
途中でも話したように、もし接地するときに足首を固められていないと、減速期に筋腱複合体のうち筋が伸びる割合が増えてしまい、腱を思うように伸ばすことが出来ません。
これでは、腱のバネを十分に活用したトレーニングになりません。
なので接地時にはしっかりと足首を固めて、腱を効果的に伸張させる必要があります。
まとめ
今回は長期間行われるプライオメトリクストレーニングが筋腱複合体にもたらす適応について話してきました。
正直僕も結果の全てを解釈しているわけではありませんが、主要な結果に関しては解釈して伝えたつもりです。
ただ、今回の結果はあくまで足関節に限った話なので、その他の関節に関しては別に考慮しなければいけないことがあるかと思います。
今回の記事が、指導者がプライオメトリックエクササイズを処方する理由の一つの根拠となれば幸いです。
長くなりましたが、今回の記事はこれで終わります。
ではまた!