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10|ケトルベルスイングの有効性を科学的知見から深堀する!

2021年10月20日

皆さんはケトルベルスイングという種目をご存じでしょうか?

ケトルベルスイングがどのような種目かご存じでない方はまずは下の動画をご覧ください。

(今回はケトルベルスイングの中で最もポピュラーであるヒップヒンジ型のケトルベルスイングを紹介します)

 

このケトルベルスイングという種目は動作自体はとても容易で、初心者であっても動作の習得に苦労しません。
ただ、ケトルベルスイングという種目自体が少しマイナーであるというのもあって、
おそらく多くの人は、このケトルベルスイングが具体的にどのような効果をもたらすのかについてあまり深くは知らないかと思います。

そこで今回の記事では、このケトルベルスイングという種目が科学的にどのような効果があるのかを先行研究を基に考えていきたいと思います。

 

1.ケトルベルスイングはパワー発揮能力を向上させるのか

ケトルベルスイングという種目は、

(A)「ヒップヒンジ」動作で股関節を後ろに引いた後
(B)動作を大きく反転させ、ケトルベルで弧を描くようにしながら
(C)勢いよく股関節を前方に突き出すエクササイズです。
その際、後頭部から仙骨までのラインは常にまっすぐにして行います。

ケトルベルスイングは、このような勢いよく股関節を前方に突き出す特徴があることから、基本的にパワー種目の一つとしてトレーニングメニューに取り入れられることが多いです。

最初にケトルベルスイングを長期間実施したトレーニング介入実験について紹介しようと思います。

Lake et al.1)はケトルベルスイングとジャンプスクワットをそれぞれ6週間実施する群を設け、各群のトレーニング効果を比較しました。
その結果、跳躍高の向上はどちらの群でも観察された一方で、群間では有意な差が観察されませんでした。

この結果から、ケトルベルスイングが跳躍高のようなパフォーマンスを高めるのに有効なトレーニングであることが考えられます。
(ただ、この研究でケトルベル群が実施していたトレーニング内容はケトルベルスイングを30秒間×12セット行うというかなりハードなトレーニングでした。なので、ケトルベルスイングだけでトレーニング効果を出すにはもしかしたら多くのレップを重ねる必要があるかもしれません)

次に、ケトルベルスイング中に発揮されるパワーをジャンプスクワットと比較した研究も紹介します2)

その結果、1RM0%(研究内で最も最大パワーの値が高かった負荷重量)で実施されるジャンプスクワット中に発揮された最大パワーが、32kgのケトルベルで行われたケトルベルスイングと同程度(有意差なし)であることが示されました。

一方で、16kgと24kgで行われたケトルベルスイングはジャンプスクワットよりも発揮される最大パワーは有意に低い結果となりました。

この結果から、もしパワー種目の代表格であるジャンプスクワットと同程度パワー向上を目指すのであれば、比較的高重量で実施されるケトルベルスイングが良いかもしれません。

 

2.下肢三関節の中でも特に股関節の伸展パワーが向上する

ケトルベルスイングは、主にヒップヒンジを利用してケトルベルを振り上げる種目であるため、股関節のパワー向上を狙ったトレーニング種目として考えられます。

Bullock et al.3)ケトルベルスイング中に下肢三関節で発生するピークパワーを観察しました。

その結果、ケトルベルスイング中に生じるパワーはほとんどが股関節で生じていることが分かりました。

ヒップヒンジで行われるケトルベルスイングでは、膝の動きがほとんど関与しないので、

やはりヒップヒンジで行われるケトルベルスイングは股関節メインのパワー種目という認識で間違っていないかと思います。

 

ただ、スポーツ動作は下肢三関節で行われる動作がほとんどだと思いますので、パワーリフティングのような種目をメイン種目と考え、ケトルベルスイングは補助種目の一つであるという位置づけになるかと思います。

3.ハムストリングスにもたらす効果

ケトルベルスイングのようにヒップヒンジを使って行われるエクササイズとして皆さんは何が浮かびますか?

おそらく多くの人が真っ先に思い浮かべたのは、ルーマニアンデッドリフトかと思います(僕の独断です笑)

ケトルベルスイングとルーマニアンデッドリフトはその動作の類似性から、エクササイズ中に作用する筋も類似しているとされています。

以下の研究はケトルベルスイング、12RMのルーマニアンデッドリフト、ノルディックハムストリングスをそれぞれやった時の半腱様筋(内側ハムストリングス)と大腿二頭筋長頭(外側ハムストリングス)に活動を観察したものです4)

その結果、ノルディックハムストリングスは半腱様筋と大腿二頭筋の間で筋活動に差が観察されなかった一方で、ケトルベルスイングとルーマニアンデッドリフトは大腿二頭筋よりも半腱様筋の方が高い筋活動を示すことが明らかとなりました。

この研究では、上の3つの種目以外にも、6つのハムストリングスの種目が同様に調査されていましたが、半腱様筋が大腿二頭筋よりも高い筋活動を示したのはケトルベルスイングとルーマニアンデッドリフトの2種目のみでした。

したがって、この2つの種目は内側ハムストリングスを特に強化したい場合には有効なトレーニングかもしれません。

 

また、ケトルベルスイングはルーマニアンデッドリフトよりも素早いSSCで行われます。

そのため、ルーマニアンデッドリフトなどのレジスタンスエクササイズで鍛えられたハムストリングスをより競技パフォーマンスにつなげていく段階の中で、ケトルベルスイングを採用するのはいい手段かもしれません。

 

4.ケトルベルスイング中に発生する床反力は2峰性である

ケトルベルスイング中に発生する床反力は2峰性であるといわれています。

ケトルベルを下降するときが「減速局面」で上に振り上げる時を「推進局面」としたときに、両方の局面で床反力が高まります。

Levine et al.5)はさらに、ケトルベルの重量を上げたときにどのように床反力が変化するかを調査しました。その結果、推進局面よりも減速局面での床反力の増加が顕著に観察されました。

これはおそらく、重くなったケトルベルを安全にボトムポジションに向かわせるために、より大きな力が加えられたからだと思います。

この様な特徴から、股関節の減速能力を高めるためには、重い重量でケトルベルスイングを実施することが有効かもしれません。

 

その他にも、ゴムバンドを使用することで減速局面の負荷を上げることも可能です。

 

まとめ

今回はヒップヒンジ型のケトルベルスイングの有効性を科学的知見を基に深堀してみました。

以下に今回の記事のポイントをまとめました。

  • ケトルベルスイング(特に高重量)はパワーを高めるメニューとして有効である可能性がある。
  • ヒップヒンジ型のケトルベルスイングは股関節のパワー向上に適している可能性がある。
  • ハムストリングスの中でも内側ハムストリングスの寄与が大きい
  • ケトルベルスイング時の床反力は2峰性であり、重い負荷あるいはゴムバンドを使用することで減速局面の負荷を上げることが可能。

 

今回の記事は自分でも理解していますがかなりマイナーなところを攻めたように思います(笑)

記事の途中でも書きましたが、ケトルベルスイングはあくまでパワー向上メニューの中でも補助種目に分類されるかと思います。なので、この記事を読んでメインのパワー種目(オリンピックリフティング種目など)を蔑ろにして、ケトルベルスイングに重きを置きすぎないように気を付けましょう。

 

今回の記事は以上になります。

 

ではまた!

 

参考文献

1.Lake JP and Lauder MA. (2012). Kettlebell swing training improves maximal and explosive strength. J Strength Cond Res.26(8), 2228-2233.

2.Lake JP and Lauder MA. (2012). Mechanical demands of kettlebell swing exercise. J Strength Cond Res. 26(12), 3209-3216.

3.Bullock GS et al. (2017). Kinematic and kinetic variables differ between kettlebell swing styles. Int J Sports Phys Ther. 12(3), 324-332.

4.Zebis MK et al. (2013). Kettlebell swing targets semitendinosus and supine leg curl targets biceps femoris an EMG study with rehabilitation implications. Br J Sports Med. 47(18), 1192-1198.

5.Levine NA et al. (2020). Effects of kettlebell mass on lower-body joint kinetics during a kettlebell swing exercise. Sports Biomech. 1-14.

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  • この記事を書いた人

中田 開人

理学療法士,CSCS 1996年7月22日生まれ 北海道札幌市出身 アスリートのパフォーマンスを高める専門家(S&Cコーチ)として活動しています。

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