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27|筋力レベルが高い人ほどパワートレーニングの恩恵が得やすい??

2022年9月20日

今回の記事では、パワートレーニングを計画する上で重要な観点となる

『パワートレーニングは筋力をしっかり高めてからやった方がいいのか?』

という点について、僕個人の意見を簡単に話していきます。

 

 

多くのトレーニング指導者は爆発的動作のパフォーマンスを高めることを目的とするときに、

①オフシーズンや試合の前の時期までに筋肥大ならびに筋力を高める

②試合が近づくにつれて速度を意識したトレーニングの比重を増やし、パワー向上を狙う

といった流れでトレーニングを計画することが多いかと思います(ざっくりですが...)。

 

↑のような流れでトレーニングを行う目的の一つとして、

「筋力をしっかりと高めておいた方がパワーも高まりやすいから」

という点を考えている人もいると思いますが、実際のところ本当に筋力が高い人ほどパワートレーニングの効果は得られやすいのでしょうか?

 

何個か文献を紹介していきます

 

1.最大筋力とパワー発揮能力との間の関係性(横断研究)

まず最初に、最大筋力とパワー発揮能力の関係性を調査した横断研究を紹介します。

 

Stone MH et al. (2003)は、22名の男性被験者の内、スクワットの1RMの上位5名(Stornger群)下位5名(Weaker群)に分け、それぞれの群に対しあらゆる負荷重量で設定されたジャンプを実施させました¹。

 

 

その結果、全ての負荷重量で実施されたジャンプスクワット時の最大パワーはStronger群の方がWeaker群よりも有意に高いことが示され、

 

さらに、スクワットの最大筋力と最大パワーとの間に高い相関関係が存在することも同時に報告しました。

 

この研究は横断研究のため、

「最大筋力が高いほどパワートレーニングの恩恵が得やすい!」

とは言えませんが、最大筋力と最大パワーとの間に高い関連性が示されていることから、

「パワーを高めるうえで、最大筋力を高めておくことの重要性は高いかも」

と考えることはできそうです。

 

 

2.最大筋力の高い人はパワートレーニングの恩恵が得やすいのか?(Cormie et al. 2010-縦断研究-)

では、実際に筋力レベルが相対的に高い人と低い人との間ではパワートレーニングから得られる効果に差はあるのでしょうか?

 

僕が調べた限り、パワートレーニング介入前に被験者の筋力レベルを分け、パワートレーニングの効果の差を比較した研究は2つありました。

まず最初に、Comie et al.が2010年にMed Sci Sports Exercという雑誌に発表した論文を紹介します²。

 

彼らはまず、35名の被験者を集め、スクワットの1RMを体重で割った値(1RM/体重)を基に、

  • 筋力レベルが高く、パワートレーニングを行う群(以下、Stronger群)
  • 筋力レベルが低く、パワートレーニングを行う群(以下、Weaker群)
  • 筋力レベルが低く、パワートレーニングを行わない群(以下、コントロール群)

の計3群に被験者を分類しました。

この際、筋力レベルが高い群と低い群との間に筋力レベルの明確な差が出るように、筋力レベルが中間層に当たる11名の被験者は、1RM測定後除外され、残った24名が↑の3群に均等に分類されました。

3群の1RM/体重は以下の通りです。

  • Stronger群(1RM/体重=1.97 ± 0.08,n = 8)
  • Weaker群(1RM/体重=1.32 ± 0.14,n = 8)
  • コントロール群(1RM/体重=1.37 ± 0.13,n = 8)

被験者を群分けした後、Stronger群Weaker群は10週間のパワートレーニングを週3回実施しました(コントロール群は日常生活レベルの運動を継続)。

具体的なトレーニング内容は以下の通りです。

 

そして↓は、トレーニング開始から5週間後と10週間後の垂直跳び時に測定されたパワーの結果です。

この結果では、Stronger群Weaker群との間にパワーの向上率に有意な差はなかったと報告されています。

しかしながら著者らは、効果量の値を見たときに、Stronger群Weaker群よりもパワーの向上率が高い”傾向”にあることを示し(特に5週目)、元々の筋力レベルが高い人ほどパワートレーニングの恩恵は得やすい傾向はありそうと述べています。

実際に論文内で書かれてあった文章を引用すると、

参考

Therefore, because stronger individuals display superior performance before ballistic power training and have a tendency for greater improvements after such training, it would be advantageous for individuals to establish a solid foundation of strength before focusing on ballistic power training.

したがって、筋力レベルが高い人はパワートレーニング前から優れたパフォーマンスを示し、トレーニング後はよりパワーが向上する傾向があるため、パワートレーニングを集中して実施する前に筋力の基礎をしっかりと築くことが有利になると考えられる

 

とも述べられています。

 

3.最大筋力の高い人はパワートレーニングの恩恵が得やすいのか?(James et al. 2018-縦断研究-)

次にもう一つの縦断研究を紹介します。

James et al.(2018)は24名の男性被験者を集め、そのうちスクワットの1RM上位8名をStronger群、下位8名をWeaker群に分類し、10週間のパワートレーニングを実施させました³。

各群の被験者情報は以下の通りです。

  • Stronger群(1RM/体重=2.01 ± 0.15,トレーニング経験 = 4.0 ± 1.31年,n = 8)
  • Weaker群(1RM/体重=1.20 ± 0.20,トレーニング経験 = 1.38 ± 0.92年,n = 8)

実際に実施したパワートレーニングは以下の通りです。

こちらの研究では先ほどのCormie et al.(2010)の研究よりも少し細かくパワートレーニングが計画されており、5週で区切って様々なトレーニングが実施され、パワークリーンなどのリフティング種目も盛り込まれています。

主要な結果は以下の通りです。

こちらの結果では、Stronger群Weaker群の両群ともにパワートレーニングにより垂直跳びのパフォーマンスが向上していることが示されており、

重要なことに、トレーニング開始から5週目の段階をみると、垂直跳び時の最大速度の向上率がStronger群Weaker群よりも有意に高いことが分かります。

 

したがってこの研究から、元々の筋力レベルが高い被験者程、パワートレーニング開始から早期に垂直跳びのパフォーマンスを高める可能性が示唆されました。

論文内で著者らは、

参考

These findings are of great value to training practices as they reveal that it is advantageous for individuals to attain a high level of strength before emphasizing plyometric actions, weightlifting derivatives, and ballistic training.

これらの知見は、プライオメトリック、ウェイトリフティングの派生動作、およびパワートレーニングを強調する前に、個人が高いレベルの筋力を獲得することが有利であることを明らかにし、トレーニング実践に大きな価値をもたらすものである。

と述べており、彼らもパワートレーニングを集中して取り組む前に事前に最大筋力を高めておくことの重要性を強調しています。

 

参考

もう一つ注目すべき点として、Stronger群は5週目まではパワーの向上が確認された一方で、10週目の段階では”それ以上の”パワー向上が確認されませんでした。この主要な要因について著者らは、10週間のトレーニング期間中、パワートレーニングは実施していたものの、1RM80%以上のスクワットなどの高重量トレーニングを実施しておらず、5週目から10週目にかけてパワーの構成要素であるForce(N)の落ち込みが観察されたことを挙げています。

このことから、パワーを効果的に高めていくためにも、パワートレーニング期間中においても高重量トレーニングを実施し、最大筋力が落ち込むのを防ぐことは重要かもしれません

4.僕個人の考え

これらの研究から僕個人の考え方としては、例えば

「重要な試合があってパワーをできるだけ高めたい!!」

と考えていた時に、最大筋力を高める期間を大幅に削ってパワートレーニングに時間を割きすぎてしまうことはあまり効果的ではないように感じます。

 

その理由としては、

『パワー期に時間を割きすぎて高重量を扱う時間が減ってしまい、十分に最大筋力を高められず、結果としてパワーも十分に高まっていかない可能性がある』

ことがまず1つ目に挙げられます。

パワーもRFDも元々のベースとなる最大筋力が関わってくるため、ここを疎かにするとパワーも思い通りに高まらない可能性があるでしょう。

 

そして2つ目の理由としては、

しっかりと最大筋力が高められていれば、その分パワーの向上もより早期に観察されることが予想される』

ことが挙げられます。

前で紹介した論文の2つともにパワートレーニング期間の早期(5週目)において筋力が高いほど高いパワーの向上率を示した(あるいは傾向がある)ことから、

たとえパワー期の期間を削って最大筋力を高める期間を長めに取ったとしても、

もしその期間の中で十分に最大筋力を高めることが出来ていれば、比較的短いパワー期間の中であっても、効率的にパワーを高めることが出来るかもしれません。

 

 

まとめ

今回の記事のまとめです👇

  • パワー発揮能力は最大筋力と強く関連している
  • 元々の最大筋力が高い人はパワートレーニングによる恩恵が”早期に”得やすいかもしれない

 

以上の研究から、個人的にオフシーズンにできるだけ最大筋力を高めておくことは、インシーズンに行うパワートレーニングの恩恵を十分に得る意味でもメリットが大きく、重要性が高いと考えています。

 

また、重要な試合だからといってパワー期を必要以上に設けてしまうと、十分な最大筋力の向上を望めず、結果としてパワーを十分に高めることも難しいかもしれません。

そして、例えパワー期の期間が最大筋力を高める期間をとった分減ったとしても、十分な最大筋力の向上が達成されていれば、その後のパワー向上も効率よく達成されるかもしれません。

 

あくまで論文ベースの考え方ですので、この知識を頭の片隅に入れておいて、あとは実際の現場の状況と相談しながらプログラムを計画してみて下さい!

 

簡単ですが、以上で今回の記事は終わりにします。

 

ではまた!!

参考文献

  1. Stone MH et al. (2003). Power and maximum strength relationships during performance of dynamic and static weighted jumps. J Strength Cond Res. 17(1), 140-147.
  2. Cormie P et al. (2010). Influence of strength on magnitude and mechanisms of adaptation to power training. Med Sci Sports Exerc. 42(8), 1566-1581.
  3. James LP et al. (2018). The impact of strength level on adaptations to combined weightlifting, plyometric, and ballistic training. Scand J Med Sci Sports. 28(5), 1494-1505.

追記(20231231)

筋力レベルを高めておくとどうしてパワートレーニングの恩恵が得やすいのか?という点に関して、追加で情報を追記していきたいと思います。

(個人的に論文を読んでいて得た知識をアウトプットするためでもある笑)

ここからは以下の論文の考察で書かれてあった内容に基づきます。

Cormie P et al. (2010). Changes in the eccentric phase contribute to improved stretch-shorten cycle performance after training. Med Sci Sports Exerc. 42(9), 1731-1744.

彼らによれば筋力レベルが高いことはECC局面での筋の急激なストレッチ負荷に耐えうる能力と関連しているのでは?とのことでした。

SSCパフォーマンスではもちろんECC局面で高い力発揮をすることが要求され、それが結果としてCON局面に引き継がれるわけですが

もしここでECC局面の急激なストレッチ負荷に耐えるだけの伸張性筋機能が備えられていなければ、筋を適切な長さに保つことができません(必要以上に伸ばされてしまう)。

そうすると、筋そのものの収縮能力が落ちてしまい(ISOで高い力発揮が可能)、弾性構造による効果的な弾性エネルギーの蓄積も実現されません。

しかし、彼らによれば、高い最大筋力を有する被験者は一定のパワートレーニング後に伸張局面の指標が特に向上したとのことでした。

まとめると、パワートレーニングの適応を十分に受けるためには事前に高強度トレーニングを積み、SSC運動中の急激な筋の伸張に耐えうるだけの能力を備えておくことが重要と言えるかもしれません。

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  • この記事を書いた人

中田 開人

理学療法士,CSCS 1996年7月22日生まれ 北海道札幌市出身 アスリートのパフォーマンスを高める専門家(S&Cコーチ)として活動しています。

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