今回の記事では、伸張性収縮の特徴について簡単にまとめてみようと思います。
基本的な内容をメインにまとめていますので、既に勉強されている方は復習のつもりで、
一方で、
「伸張性収縮ってなんぞや?」
という方はここで紹介されている内容は抑えておくとよいかもしれません。
目次
1.伸張性収縮とは?
筋は縮みながら力発揮する収縮様式と伸ばされながら力発揮する収縮様式があり、前者を短縮性収縮、後者を伸張性収縮と呼びます。
例えば、ダンベルカールを例に挙げて考えてみると、
肘を曲げてダンベルを身体の方向に近づけるときに上腕二頭筋などの肘屈曲筋は縮みながら力を発揮しているため短縮性収縮をしています。
一方で、肘を伸ばしながらダンベルを身体から遠ざけるときには肘屈曲筋は伸ばされながら力を発揮しているため伸張性収縮を行っています。
また、ダンベルカールなどの単関節エクササイズに限らず、スクワットのような多関節エクササイズでも短縮性局面と伸張性局面は存在し、しゃがみ込む局面は殿筋群や膝伸展筋群などが伸張性収縮、挙上する局面では各筋が短縮性収縮の収縮様式で収縮しています。
参考
その他にも日常生活の中でも階段の場面で考えると、昇るときには脚の筋肉は短縮性収縮で活動し、降りるときには伸張性収縮で活動しています
ポイント
- 伸張性収縮は筋肉が伸ばされながら力発揮をする収縮様式のこと
2.伸張性収縮が発揮する筋力について
A.伸張性収縮の方が短縮性収縮よりも高い筋力を発揮することができる
一般的に、伸張性収縮で発揮される最大筋力は短縮性収縮で発揮される最大筋力よりも高いことが知られています。
スクワットを例に挙げて考えてみます。
例えば、スクワットの1RMが100kgの人がいたときに、その人は100kg以上の重さを”挙げる(短縮性収縮)”ことは出来ませんが、ゆっくりと制御しながら”降ろす(伸張性収縮)”だけなら100kg以上でも行うことが出来ます。
これはまさに短縮性収縮の筋力よりも伸張性収縮の筋力が大きいことを表しており、トレーニング経験者であればだれもが経験したことがあることでしょう。
実際に下の力-速度関係のグラフをご覧ください。
ご覧の通り、伸張性収縮の領域で発揮される筋力は短縮性収縮よりも大きいことが分かります。
では、なぜ伸張性収縮では短縮性収縮よりも高い力発揮が可能なのでしょうか?
次にその主な理由を挙げていきます。
B.クロスブリッジメカニズム
筋の収縮は、筋原線維を構成する『アクチン』と『ミオシン』がクロスブリッジを形成することで起こることはよく知られています。
また、ミオシンはアクチンとクロスブリッジを形成するためのヘッドを2つ持っており、等尺性収縮と短縮性収縮ではその内1つのミオシンヘッドがアクチンとクロスブリッジを形成しています。
その一方で、伸張性収縮のように筋が引き伸ばされるような外力が働いたときにはミオシンのもう一つのヘッドもアクチンとクロスブリッジを形成することが知られており¹、
これが伸張性収縮で発揮される力発揮がその他の収縮様式(等尺性収縮や短縮性収縮)よりも大きいメカニズムであると考えられています。
ポイント
- 伸張性収縮は短縮性収縮よりも高い力を発揮することができる
- 伸張性収縮において2つのミオシンヘッドがアクチンと結合していることが高い力発揮と関係しているかも
3.伸張性収縮に伴う筋損傷
また、伸張性収縮を実施した後にはしばしば筋の損傷が生じると言われており、これは運動誘発性筋損傷(Exercise-induced Muscle Damage:EIMD)と呼ばれています。
先述した通り、伸張性収縮は短縮性収縮や等尺性収縮と比較して高い筋力を発揮するのですが、
伸張性収縮では動員される筋線維が少なく1つ1つの筋線維に加わる負荷が非常に大きくなると言われています。
実際に筋損傷の間接的マーカーであるクレアチンキナーゼ(creatine kinase:CK)やミオグロビン濃度は短縮性エクササイズ後ではほとんど増加しない一方で、伸張性エクササイズ後では急激に増加することがわかっています²。
また重要なことに、伸張性収縮によって誘発されたEIMDは”長期間の筋力低下”と関連すると考えられており、実際に伸張性収縮後にはCK値やミオグロビン濃度の増加と同時に最大筋力の低下も長期間生じることが分かっています²。
その一方で、短縮性エクササイズ後においても筋力低下は生じるものの、その低下は長期化せず、おおよそ1日経過してしまえば元の値まで回復すると考えられています。
では、伸張性収縮で筋損傷が生じるのはなぜなのでしょうか?
その原因には以下に挙げる2つのメカニズムが有力であると考えられています。
A.ポッピングサルコメア仮説
1つ目は”ポッピングサルコメア仮説”というもので、
こちらはサルコメアに対して強い力が加わったことによるサルコメアの破壊が筋損傷の原因だと考えた仮説になります。
まず大前提として、筋線維はある一定の長さまで伸張されると発揮できる張力が大きくなり、それ以上伸ばされると発揮できる張力が急激に低下していくことが知られています。
こちらは『力-長さ関係(Force-Length Relationship)』と呼ばれるもので下の図で表されます。
簡単に説明すると、筋肉の発揮張力は筋原線維を構成するアクチンとミオシンがクロスブリッジを形成することで生じますが、
図の①のように筋が極度に縮んでいる状態ではアクチン同士の重なり合いが多くなってしまい、アクチンとミオシンのクロスブリッジが阻害されてしまい発揮張力が低下してしまいます。
そして図の②のように徐々に筋が伸張しアクチン同士の重なり合いが減っていくと、形成されるクロスブリッジの数が増え、それに伴い発揮張力も増加していき、
アクチン同士の重なり合いがなくなり全てのアクチンとミオシンがクロスブリッジを形成した際に発揮張力は最適化されたことになります(③と④)。
しかしながら、それ以上筋が伸張されるとアクチンとミオシンのクロスブリッジ数が減っていってしまい、発揮張力はまた元の値まで徐々に落ちていきます(④→⑤)。
今回重要となってくるのが④→⑤の範囲であり、
伸張性収縮で筋の長さがある一定以上に長くなっていくとそれに抵抗する力というのもクロスブリッジ数の減少に伴い落ちていきます。
また、筋は基本的に中央部が太く、端に行くほど細くなっていく構造をしていることから、中央部と比べて端の筋線維は負荷に対する抵抗力が弱いことが知られており、
例えば伸張性収縮を行っている場合には、中央部の筋線維は外からの抵抗に精一杯抵抗し、発揮張力が最適化される長さ付近で筋長を保てている一方で、端の筋線維は抵抗に耐えることが出来ず上の図の下降局面に差し掛かり、急激に伸張されてしまうといったことが起きやすくなってしまいます。
(イメージ👇)
その結果、特に両端の筋線維は外からの負荷に耐えられない状況が生じ、はじける(popする)ような状態となることで筋損傷に繋がる可能性が高くなります。
以上が伸張性収縮で生じる筋損傷メカニズムの一つとして考えられているポッピングサルコメア仮説です。
B.カルパインの活性化
もう一つのメカニズムとしてはカルパインの活性化が挙げられます。
神経線維を伝わってきた電気刺激が神経末端に伝わると、神経伝達物質であるアセチルコリンが神経末端から分泌されます。
そして、それによって生じた活動電位はT管を伝わり、筋小胞体からのカルシウムイオンの放出が促され筋収縮が生じます。
この筋収縮の流れの中で、繰り返される伸張性収縮は筋小胞体の損傷をもたらし、カルシウムイオンの無秩序な放出を引き起こすことがあります。
その結果、筋細胞内ではカルシウム依存性タンパク質分解酵素であるカルパインが活性化されてしまうのですが、
カルパインには筋タンパク質を分解する作用があるため、ここで活性化されたカルパインは筋タンパク質の分解を介して筋損傷を誘発する可能性があります。
ポイント
- 繰り返される伸張性収縮では筋損傷が生じることが多い
- サルコメアの破壊(ポッピングサルコメア仮説)やカルパインの活性化が伸張性収縮後の筋損傷に関連していると考えられている
4.伸張性収縮に伴う筋肉痛
しばしば、伸張性収縮を伴うエクササイズを実施すると、しばらくしてから『筋肉痛』が発生します。
この伸張性エクササイズ後の筋肉痛は遅発性筋痛(Delayed onset muscle soreness:DOMS)と呼ばれており、DOMSは伸張性エクササイズ実施から1-3日後にピークを迎え、7-10日後に消失すると言われています²。
ここで注意する点としては、筋肉痛という言葉を聞くと先に説明した
「筋損傷が起きた結果として筋肉痛が生じている」
という印象を持ちやすいかと思いますが、必ずしも筋肉痛の程度と筋損傷の程度は一致していないことが分かっています。
繰り返される伸張性収縮に伴う筋肉痛は筋の損傷ではなく、結合組織の損傷や炎症を表しているかも?とも言われており¹、
「筋肉痛が生じている=筋肉が損傷している」
と考えるのは少し短絡的かもしれません。
ポイント
- 伸張性収縮は筋肉痛をもたらすことが多い
- 筋損傷の程度と筋肉痛の程度は必ずしも一致しない
まとめ
ここまで伸張性収縮に関する基本事項をまとめてきました。
以下本記事のまとめです。
- 伸張性収縮は筋肉が伸ばされながら力発揮をする収縮様式のこと
- 伸張性収縮は短縮性収縮よりも高い力を発揮することができる
- 繰り返される伸張性収縮では筋損傷が生じることが多い
- 伸張性収縮は筋肉痛をもたらすことが多い
次の記事では伸張性収縮と筋肥大の関係性について考えていきます。
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参考文献
- Douglas J et al. (2017). Eccentric Exercise Physiological Characteristics and Acute Responses. Sports Med, 47(4), 663-675.
- Lavender AP and Nosaka K. (2006). Changes in fluctuation of isometric force following eccentric and concentric exercise of the elbow flexors. Eur J Appl Physiol. 96(3), 235-240.