前回のカウンタームーブメントジャンプ(countermovement jump; CMJ)の力-時間曲線の波形の意味を理解する記事の続きとして、
本記事では、
「そしたらトレーニングの実施によって力-時間曲線はどのような変化が起きるのか?」
といった点について解説していきます。
(まだ前回の記事を読まれていない方はあらかじめ読んでおくことをお勧めします!↓)
トレーニングによってCMJの力-時間曲線がどのような変化を示すのかを理解できることで、
多くのスポーツに含まれるSSCパフォーマンスを高めるためにはどういったトレーニングが有効なのかが理解できるだけでなく、
実際にどういった変化がもたらされるのかといったところまで知っておくと、それぞれのトレーニング種目で意識することも変わってくると思います(プライオのしゃがみ込みの速さ、レジスタンストレーニングの下降局面の速さ等)。
また、地面反力を測れる場合には選手へのトレーニング効果を視覚的に示すことが可能になり、場合によってはより良いメニュー提供に繋がっていく可能性があるでしょう。
では早速見ていきましょう!
目次
1.長期的な”Power Training”の実施により力-時間曲線はどう変化する?
ではまず最初に、Power Trainingを一定期間実施した際にどのようにCMJの力-時間曲線が変化するのかについて解説していきます。
Cormie et al. (2009)は、18名の非トレーニング習熟者をPower Training実施群(n = 10)とコントロール群(n = 8)に分け、12週間のPower TrainingがCMJ中の力-時間曲線、速度-時間曲線などにもたらす影響を調査しました1。
(ちなみに本実験で採用されたPower Trainingは1RM0% or 30%のジャンプスクワットでした)
早速結果を見ていきます。
12週間のPower Trainingの実施により以下のように各曲線は変化しました。
最初に一番左のグラフから見ていきます。
こちらは縦軸が重心変位を示しており、特に0より下の曲線はどれだけしゃがみ込んだかを表しています。
グラフをみると12週間のPower Training後にCMJ中のしゃがみ込みの深さが深くなっているのがわかります。
次に真ん中のグラフを見てみると、
抜重局面にて下方向(負)の速度がTraining前よりも高くなっています。
この研究では、伸張性(=ECC)局面(抜重局面を含む)の時間というのはTraining前と後とで差がなかったと記載があり、
先ほどのしゃがみ込みの深さ(距離)が深くなっている事実を踏まえると、
速さ×時間=距離から抜重局面の負の速度が高まったと考えられます。
また、物体のもつ運動量(質量×速度)の変化は加えられた力積の変化に等しいという関係性があることを踏まえると(Δ力×時間=Δ質量×速度)、
下方向への負の速度が高まっている場合、ここで発生した運動量をECC局面にて食い止める必要があるため、ECC局面では同等の力積を生み出すことが要求されます。
その結果、一番右のグラフで示すようにより高いForceがECC局面で生成されています(真ん中の*が示しているグレーの範囲)。
前回のブログでも書きましたが、ECC局面終了時の高いForceはそのまま推進(=CON)局面に伝達されるため、結果としてCON局面開始時に高いForceが生成され、最終的にCON局面全体の加速度ならびに速度向上(真ん中のグラフの右側の*が示しているグレーの範囲)に結びついていると考えて良いでしょう。
このように長期間のPower Trainingはしゃがみ込みの局面(抜重局面+減速局面)での跳躍テクニックの変化により高い跳躍を実現させることが可能になる可能性があります。
参考
素早く深いしゃがみ込みが跳躍に対してどういった流れで跳躍にメリットをもたらしているのか?に関しては上に示した通りですが、
では、
「どうしてPower Trainingの実施により素早く深いしゃがみ込みができるようになったのか?」
こちらに関する考察は論文内では詳しく示されていませんでしたが、個人的には
「筋が急激な伸張負荷にも耐えられるだけの素早い収縮ができるようになった」
ことが関係しているのでは?と考えています。
まず前提として、筋には力発揮がしやすい最適な長さというのが存在し(至適長)、それを超えると筋の力発揮能力は低下していくと言われています。
そのため、もしかするとTraining前は一定の筋長以上にならないように(力が抜けないように)深すぎないしゃがみ込みに抑えていたのかもしれません。
しかしながら、一定のPower Training期間後には急激なしゃがみ込み動作においても、
筋が咄嗟に素早く収縮できる能力が身につき(RFD↑)、それに伴い至適長を比較的保つ能力も身に付くことでより深いしゃがみ込みが可能になった(深くしゃがんでも筋が伸ばされすぎることがない)のでは?と考えています。
(また、筋のこのECC局面での素早い収縮は腱組織の効果的な弾性エネルギー蓄積にも貢献するため、一石二鳥とも言えます(詳細は以下のブログ記事を参照)。)
ポイント
- Power Trainingによりより素早いかつ深いしゃがみ込みが可能になる可能性
- 上記の跳躍テクニックの変化はECC局面のRFD増大をもたらし最終的にCON局面の改善に貢献する
2.Power TrainingとHigh-Intensity Trainingを比較するとどのような違いがあるか?
では次に、Power TrainingとHigh-Intensity Trainingを比較してそれぞれがCMJの力-時間曲線にもたらす影響を解説していきます。
Cormie P et al. (2010A)は、32名の被験者を
筋力が高くPower Trainingを実施する群(SP;n = 8)
筋力が低くPower Trainingを実施する群(WP;n = 8)
筋力が低くHigh-Intensity Trainingを実施する群(WS;n = 8)
コントロール群(C;n = 8)
に分類し、週2回10週間のトレーニング介入を行いました2。
また、ここでのPower Trainingは1RM0% or 30%のジャンプスクワットが採用され、
High-Intensity Trainingとしては1RM75-90%のスクワットが採用されました。
その結果、Power Trainingを実施した群(SPとWP)に関しては、ECC局面の値(power, force, velocityなど)が改善し、その伸張性局面の値の変化率とCON局面の値の変化率との間には有意な相関関係があることを報告しました。
また興味深いことに、Power Trainingを実施した群はECC局面とCON局面の両方を含むCMJ中のCON局面の値を改善した一方で、CON局面だけで構成されるスクワットジャンプ中のCON局面の値は変化しなかったことを報告しています。
つまり、Power Trainingで見られるSSC中のCON局面の改善は、あくまでECC局面の改善から派生して生じているものと考えられ、
CON局面単独に対してはそこまで大きな影響は持っていない可能性があると言えます。
一方でHigh-Intensity Trainingは、Power Trainingと同様CMJに関してはECC局面の改善を介してCON局面の値を改善しましたが、
それだけでなく、CON局面のみで構成されるスクワットジャンプにおいてもCON局面の値を改善させることがわかりました。
ポイント
・Power TrainingとHigh-Intensity Trainingの両方ともECC局面の改善を介してSSCパフォーマンスを高める
・High-Intensity TrainingはCON局面単独に対してもパフォーマンス改善効果をもつ
また、Cormie P et al. (2010B)は類似した研究を同年に発表しました。
彼らは被験者を
Power Trainingを実施する群(PT;n = 8)
High-Intensity Trainingを実施する群(ST;n = 8)
コントロール群(n = 8)
に分類し、10週間のトレーニング効果を検証しました3。
(前回同様、Power Trainingは1RM0% or 30%のジャンプスクワット、High-Intensity Trainingは1RM75-90%のスクワットが採用)
その結果PT群とST群の両群とも、CMJ中のECC局面とCON局面開始時のForceが改善してしていることが明らかとなりました。
興味深いことに、上の図からPT群ではST群よりもより幅広い時間帯でForceを改善しているのが読み取れます。
では、なぜPower Trainingではこのようなより顕著なForceの改善が観察されたのでしょうか?
この疑問に関する答えは、ECC局面の反動動作の素早さが関連していると考えられます。
というのも、彼らはPT群はST群よりも動作開始から離地までの時間が短く、より素早い反動動作を示すようになったと報告しています。
素早い反動動作というのは抜重局面での負の速度増加に繋がります。そして負の速度が高まったということはそれを食い止めるためにより高いForceをECC局面にて加えることが要求されます(一つ前のセクションでも示した通り)。
実際にECC局面のRFDはPT群の方がST群よりも改善していることが報告されており、これは最終的にはCON局面全体のForce、力積改善にも貢献していると言えるでしょう(=跳躍高↑)。
まとめると、どちらの群もECC局面の改善を介してSSCパフォーマンスを高めていますが、
特にPower TrainingはECC局面にて素早い反動動作を実施することで”より速くかつ高い跳躍”を可能にしている可能性があります。
ポイント
・Power TrainingとHigh-Intensity Training両方ともECC局面の改善を介してCON局面の改善をもたらす
・Power Trainingはより素早い反動動作を可能にし、”速くかつ高い跳躍”を可能にする可能性がある
3.伸張性トレーニングによって力-時間曲線はどのように変化する?
また、ここまでPower trainingとHigh-Intensity Trainingの両方がECC局面の改善を介してSSCパフォーマンスを高める話をしてきましたが、
では、ECC局面を強調した伸張性Trainingによっても類似した効果が得られるのでしょうか?
一般的に、伸張性Trainingは伸張性収縮の筋機能を特異的に改善することが報告されています。
例えば、Miller LE et al.(2006)は短縮性収縮のみのトレーニングと伸張性収縮のみのトレーニングを比較した結果、
どちらの群も短縮性収縮の筋機能を改善した一方で、伸張性収縮の筋機能の改善は伸張性収縮のみのトレーニングを実施した群で有意に大きかったことを報告しています4。
特に右のグラフは縦軸がピークトルクまでの時間の変化率を示しており、RFDと類似した指標になります。
伸張性RFDの改善は直接的に推進局面の力積等に影響をもたらすため、
伸張性収縮を強調したトレーニングというのはECC局面の改善を介してSSC機能を高める可能性が高いことが予想されます。
実際に、短縮性収縮のみのトレーニングと伸張性収縮のみのトレーニングを比較した際に、伸張性収縮のみのトレーニングの方が跳躍時のパワーがより有意に向上することが以前に報告されています5。
またこちらの研究では、脚スティッフネスの改善(バネ機能)も同時に起こることも報告されています。
伸張性RFDの改善はスティッフネスの改善に関与するため、
伸張性収縮を強調したトレーニングは伸張性RFDを高めることによる力学的なメリットだけに留まらず、それに付随して起こるバネ機能の改善もSSCパフォーマンス向上に関与している可能性があります。
これらを力-時間曲線に当てはまめて考えると、
伸張性収縮を強調したトレーニングによってECC局面を素早くかつ力強く実施する能力が改善することが予想され、
その結果、力-時間曲線の特にECC局面の時間短縮+発生する力発揮の増大といった変化が見られる可能性が高いでしょう。
まとめ
ここまで一定期間のトレーニング介入によりCMJの力-時間曲線はどのように変化するのかというテーマで解説してきました。
以下本記事のまとめです。
- Power Trainingの実施により跳躍テクニックが変化(より速くかつ大きな沈み込み)が生じる可能性がある(→ECC RFDの向上→推進局面の力積増大).
-
Power Trainingの実施により急激な反動動作が可能となり、ECC局面での高いRFD生成につながる(SSC機能の向上)
-
Power TrainingはHigh-Intensity Trainingよりも離地までの時間が短縮し、素早いSSC動作が獲得される(素早い反動動作が関連している?)
-
High –Intensity TrainingはECC局面の改善(SSC機能の改善)だけでなく、CON局面単独の収縮能力改善の貢献度も大きい
- 伸張性Trainingはバネ機能の改善を介してSSC機能を高める可能性
今回の記事を自分自身書いていく中で、
「SSCパフォーマンスを高めようとするならECC局面の改善がめちゃめちゃ重要だな」
と僕自身感じました。
あと、今回の記事ではPower Trainingの有効性を少し強調するような書き方になってしまいましたが、
注意して欲しいのはPower TrainingとHigh-Intensity Trainingのどっちが良い悪いではなく、どちらのTrainingもSSCパフォーマンスを高めるためには非常に有効です。
(例えば、Power Trainingの恩恵を十分に得るためには事前に高い最大筋力を有していた方が良いと考えられている(以下のブログ記事↓)。)
そのため時期と目的を理解してその時にあったトレーニングを処方できるようにしましょう!
今回のブログ記事は全体として内容が少しヘビーなものとなりました。。。
僕自身も定期的に見返して復習します。
ではまた!!
参考文献
- Cormie P et al. (2009). Power-time, force-time, and velocity-time curve analysis of the countermovement jump: impact of training. J Strength Cond Res. 23(1), 177-186.
- Cormie P et al. (2010). Changes in the eccentric phase contribute to improved stretch-shorten cycle performance after training. Med Sci Sports Exerc. 42(9), 1731-1744.
- Cormie P et al. (2010). Adaptations in athletic performance after ballistic power versus strength training. Med Sci Sports Exerc. 42(8), 1582-1598.
- Miller LE et al. (2006). Knee extensor and flexor torque development with concentric and eccentric isokinetic training. Res Q Exerc Sport. 77(1), 58-63.
- Elmer S et al. (2012). Martin J. Improvements in multi-joint leg function following chronic eccentric exercise. Scand J Med Sci Sports. 22(5), 653-661.