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33|プライオメトリックエクササイズ中に筋腱複合体はどのように振る舞うのか??

本記事ではこれまであまり書くことがなかったプライオメトリックエクササイズについて書いてみようと思います。

 

具体的な内容としては以下の通りです。

①伸張-短縮サイクル(stretch-shortening-cycle; SSC)を含むプライオメトリックエクササイズ中の筋腱複合体はどのような振る舞いをしているのか?

②長期的なプライオメトリックトレーニングを実施すると筋腱複合体の振る舞いはどのように変化するのか?

大きく分けてこの2点について簡単に書いていこうと思います。

 

1.プライオメトリックエクササイズ中に筋腱複合体はどのような振る舞いをみせる??

印象として、SSCを含むプライオメトリックエクササイズ中に筋肉はその名前の通り、

「着地してから衝撃吸収する際に筋肉は伸張し、そこから推進するために短縮する

という典型的な”伸張-短縮サイクル”が行われていると考えている方は多いかもしれません。

 

では本当にそのような動態をしているのでしょうか??

これに関して調査された研究はいくつかあるのですか、そのうちの一つを紹介します。

Sugisaki N et al. (2005).は足関節のみで行われるリバウンドジャンプ中の筋腱複合体の動態を調査しました。

その結果、彼らは着地から足関節が背屈する局面では足関節底屈筋である腓腹筋内側頭は確かに伸張はしているものの、その程度は非常に小さく

その一方で、腱組織の伸張が大きく観察されることを報告しました。

また、それに引き続く足関節が底屈する推進局面では筋の短縮は、やはりここでもそれほど大きいものではなく、

腱の短縮の程度が比較的大きいものであり、筋腱複合体にて発揮される推進局面でのパワーの内、約85%は腱によるものと報告しました。

 

「え、筋腱複合体が伸張する局面で筋肉も伸ばされた方が高い弾性エネルギーが蓄積されるんじゃないの??」

と感じた方もいるかもしれません。

 

ただ、バネのような役割をもって弾性エネルギーを蓄積する潜在能力に関しては、筋線維よりも腱線維の方が圧倒的に高いことが知られています。

 

したがって、伸張局面にて効果的に弾性エネルギーを高めるためには腱を効果的に伸ばすことがより重要となるのです。

 

そして腱による大きな弾性エネルギーの蓄積を達成する上で、伸張局面にて筋が準等尺性収縮のような振る舞いを見せることは非常に理にかなっていると言えます。

つまり、筋腱複合体内に含まれる筋が収縮するとそれに連結した腱はそれにつられて引き伸ばされることが想像がつくと思います。

その一方で、もし仮に伸張局面にて筋が一緒になって伸張されてしまうと、筋によって発揮された力が腱に伝達されず、腱の効率的な伸張が達成されません。

 

例えば、綱引きを考えるとわかりやすいですが、お互いが拮抗していて引っ張る方向の反対側からも綱(腱)が引かれている場合(筋の等尺性収縮のような)、

綱はピーンと張った状態となりますよね。

ただここで、相手側が力を緩めた途端(筋が緩んで伸張するような)、張っていた綱は弛んでしまうでしょう。

そのため、腱をしっかりと伸張させるためには、それに付着している筋は準等尺性収縮をしていた方がより伸びやすいのです。

 

したがって、伸張-短縮サイクルの”伸張”と”短縮”は筋の伸張と短縮と表現するのはあまり好ましくなく、”筋腱複合体あるいは腱の”伸張-短縮サイクルと表現する方が正確かもしれません(二関節筋においては)。

 

2.単関節筋と二関節筋との間でSSC中の筋腱複合体の振る舞いに違いはあるの?

前の段落では二関節筋(腓腹筋)についての話でしたが、先述した筋腱複合体の振る舞いは単関節筋にも当てはまるのでしょうか?

 

先に結論を述べておくと、SSC中に単関節筋は二関節筋とは違った筋腱複合体の振る舞いを見せると言われています。

 

Ishikawa M et al. (2005).はDrop jump中における単関節筋である外側広筋と二関節筋である腓腹筋内側頭の筋腱複合体の振る舞いを調査しました。

 

また、彼らは同時にDrop jumpを実施するボックス高を3種類設け(OP:最も跳躍高が高かった高さ,LOW:OPより-10 cm,HIGH:OPより+10 cm)、それぞれの条件での筋腱複合体の振る舞いも同時に調査しました。

 

その結果、二関節筋である腓腹筋内側頭は先ほどのセクションで説明したものと類似した振る舞いをみせ、

伸張局面では筋は等尺性〜短縮性の収縮様式をしていることが示されました。

その一方で、単関節筋である外側広筋は伸張局面にて伸張していることが明らかとなりました。

つまり、先ほどの二関節筋とは異なり、単関節筋では純粋な伸張-短縮の振る舞いを見せていたのです。

 

よく、プライオメトリックエクササイズでの短縮局面での増強効果のメカニズムの一つに”伸張反射”が挙げられていますが、

この結果を元に考えると、二関節筋の筋自体は準等尺性収縮をしているのでそのメカニズムの関与は非常に限定的である可能性があります。

その一方で単関節筋に関しては純粋な伸張→短縮の振る舞いをみせることからひょっとすると伸張反射の関与も少なからずあるかもしれません🤔

 

またここであらかじめ話しておくと、これ以降に解説する筋腱複合体の適応の話はあくまで二関節筋の話であって、単関節筋にも当てはまるかどうかは定かではないことはお気をつけ下さい!

 

参考

ちなみに、DJを行うボックス高の違いによる筋腱複合体の振る舞いについては興味深い結果が示されています。

事前に最大跳躍高が達成されたボックス高から実施されたDJ(OP条件)はそれよりも低い条件(LOW条件)よりも伸張局面での筋の伸張が抑えられ、それと同時に腱がより伸張していることが確認されます。

その一方で、OP条件よりも高いボックス高から行われたHIGH条件では伸張局面において筋の過度な伸張が起こり、それに伴いOP条件よりも腱の伸張が妨げられているのが確認されます。

この結果からも、DJなどで筋腱複合体の適切な伸張-短縮サイクルを促したい場合には、事前に適切なボックス高を決めておくことが重要かもしれません

https://twitter.com/kaito_stpt/status/1684163989792788482

3.セッション中のプライオメトリックエクササイズが筋腱複合体の振る舞いにもたらす影響(急性効果)

では、次にプライオメトリックエクササイズを行った際に筋腱複合体の振る舞いは一過性にどのような変化が起こるのでしょうか?

 

Hirayama et al. (2012)は、反動ありの足関節底屈運動(3reps × 3 sets)が

引き続く反動を用いた足関節底屈運動中の”下腿三頭筋の筋活動”や”筋腱複合体の振る舞い”にもたらす影響を調査しました。

彼らによれば、事前に行われたプライオメトリックエクササイズにより引き続くプライオメトリックエクササイズ中の伸張局面における筋線維の伸張が抑制され、その一方で腱の伸張の程度が増大することを報告しました。

この結果は、先ほど説明した腱による効果的な弾性エネルギーの蓄積を促進させる上で好ましい適応と言えるでしょう。

 

また、Hirayama et al. (2012)はこのような適応が起きた要因として、着地に伴い生じる地面反力の発生から主導筋である腓腹筋内側頭の筋活動開始までのタイムラグが減少したことを挙げました。

 

つまり地面に足部が接地してから素早く筋活動が開始することが可能になり、筋の無駄な伸張を抑えることができるようになった(≒腱の伸張を促進)と言えるでしょう。

では、このような一過性の適応は長期的にプライオメトリックトレーニングを実施した時に、好ましい適応につながっていくのでしょうか??

 

4.長期的なプライオメトリックトレーニングが筋腱複合体の振る舞いにもたらす影響

Hirayama et al. (2017)は、傾斜台を用いたDepth jumpを10reps × 10setsを12週間(週3回)実施し、腓腹筋の筋腱複合体の振る舞いがどのように変化するのかを調査しました。

またこの際、Depth jumpの局面を減速局面前半(1st)、減速局面後半(2nd)、推進局面(3rd)、推進局面後半(4th)に分け、

トレーニング前後における各局面の『地面反力の変化』、『筋や腱の収縮速度の変化』さらには『筋活動の変化』などを比較検討しました。

 

その結果、まず『地面反力の変化』に関しては、介入後に2ndと3rd局面の地面反力の有意な増大が観察されました。

長期的なプライオメトリックトレーニング介入によって、どうしてこのような地面反力増大が生じたのか?

順を追ってそのメカニズムを紐解いていきましょう。

 

まず、減速局面の後半で筋活動が高まった要因について考えていきましょう。

ここでの地面反力増大には、主導筋である腓腹筋内側頭の筋活動増大が観察されたことが関係している可能性があります。

減速局面での筋活動の増大はつまり、”筋が急激な伸張に抵抗している”ことを意味しています。

ここでの筋の伸張に対する抵抗力増大は、同時にそれに連続しているアキレス腱などの腱組織のより大きな伸張を促進します。

 

これは先ほどHirayama et al. (2012)のプライオの急性効果で確認されたような

『伸張局面での筋の過度な伸張が抑えられ、連続する腱の伸張が促進される現象』

とかなり類似していることがわかります。

 

そして、減速局面で蓄積された弾性エネルギーは引き続く推進局面で放出されることになります。

実際に介入後にて、3rd局面での腱組織の収縮速度増大が観察されています。

つまり3rd局面にて観察された地面反力の増大は、筋腱複合体の振る舞いの変化に伴って生じた腱の収縮速度増大が関係していると言えるでしょう。

 

このように、プライオメトリックエクササイズによって”一過性に”もたらされる効果は、”長期的な介入においても”生じうると考えられます。

 

よって、

「プライオメトリックトレーニングを長期的実施することでどのようなメリットがあるんですか??」

と聞かれたらその一つの答えに

「筋腱複合体の振る舞いを腱がよりエネルギーを蓄積できるように適応させることができる!」

と回答することができるかもしれません。

当然プライオによってもたらされる効果はそれだけではないでしょうけれど。。

 

まとめ

本記事はプライオによって筋腱複合体の振る舞いってどんな適応を起こすのかについて解説してきました。

以下本記事のまとめです。

  • 二関節筋の場合、伸張-短縮サイクルでは実は筋の伸張はあまり起きておらず、それよりも腱が効果的に伸張している可能性がある
  • その一方で、単関節筋では純粋な伸張-短縮が生じている可能性がある
  • プライオの急性効果として、伸張局面での筋の急激な伸張が抑えられ、その結果として腱の伸張が促進(弾性エネルギーの増大)されるようになる
  • 急性効果で見られた適応は長期的な介入によっても同様に観察される

本記事が

「プライオって自分の対象者にもよく処方しているけど、正直どのような適応を狙ってるかを聞かれたらうまく答えられないかも。。。」

といった方にとって少しでも参考になれば幸いです。

 

以上で今回の記事を終えようと思います。

ではまた!!!

 

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追伸

7−8月に入って仕事が少しだけ落ち着いてる時期に入り、今までずっと放置していた大学院時代の研究結果を最近になって掘り起こして論文を書いています。

その内容にプライオが少し絡んでいることもあって今回プライオについての記事を書こうと思いました📝

なんとか今年度中の採択を目指して毎日コツコツと進めています🙋‍♂️

 

また、8月に入り、もう少しで勢いで始めたDMM英会話が1年経とうとしています。

まだまだスラスラ話せるレベルではないですが、毎日楽しく勉強できてます!

いつか海外に出た時にノーストレスで話せるようになりたいです👊笑

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  • この記事を書いた人

中田 開人

PT,CSCS,MS(スポーツ科学) 早稲田大学大学院博士後期課程 1996年7月22日生まれ 北海道札幌市出身 アスリートのパフォーマンスを高める専門家(S&Cコーチ)として活動しています。

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