今回の記事では多くの人が好きであろう『昼寝』について話していきたいと思います。
昼寝はおそらく誰もが経験したことがあるかと思いますが、起きてから少ししたら頭がスッキリしてるなんてことよくありますよね。
僕自身も、受験生のときは昼食後に強烈な眠気が襲ってきて
「勉強に集中できない!!」
なんてことよくありましたが、そんな時僕はいつも30分くらい仮眠をとるようにしていて、一度頭をスッキリさせてました。
「寝るなんて甘えだ!!」
という声も聞こえてきそうですが、個人的にはこの方法が結構ハマって、起きてからはかなり集中して勉強に向かえていたのを覚えています(笑)
そんな話はさておき、今回はこの昼寝とスポーツパフォーマンスとの関係について話していきたいと思います。
10分程度で読める記事かと思いますので、是非最後まで読んでみてください😴
目次
1.昼寝と睡眠不足
昼寝について
まず最初に昼寝の定義について話していきたいと思います。
Dinges et al. (1987)1は、昼寝を通常の夜間の睡眠の50%未満の睡眠時間で構成されるものと定義しました。
これを聞くと結構長いように感じますが、
一般的に多くの研究で検証されている仮眠時間は10~90分程度が多いような印象を受けます。
また、昼間に寝る行動は、英語圏では『Post lunch dip 』と呼ばれており、日本語では「昼食後の仮眠」と訳します。
『Post lunch dip 』という名前の通り、多くの人が昼間に眠くなる時間帯というのは、昼食をとった後の時間帯(13時~16時くらい)であるといわれています。
ただ、昼食後の仮眠といっても、昼間に来る眠気は昼食をとったかどうかに関わらず訪れることが多いと言われており、この要因としては体内温度の概日リズムが関係しているといわれています2。
つまり、ヒトの体内温度というのは、24時間周期で変化することが知られていますが、この体内温度が下がるタイミングで眠気が訪れることが多いようです。
下の図は1日の体温の変化を示しており、確かに眠気が襲ってくるといわれている14時ごろに体内温度の落ち込みがみられます。
Monk TH. (2005). The post-lunch dip in performance. Clin Sports Med. 24(2)e15-xii.の図1を一部改訂
また、昼頃の眠気が訪れる時間帯では、アスリートのパフォーマンスが低下する可能性があると言われており、実際にMonk (2005)は、
Of course, athletes typically do not fall asleep during a competitive event, but often the difference between winning and losing is only a few tenths of a second. Therefore, any physiological negative, however much it is masked by the heat of competition, may have an adverse impact on athletic performance.
もちろん、アスリートが競技中に寝てしまうことは通常ないが、勝敗の差はコンマ数秒しかないことも少なくない。したがって、いくら競技の熱で隠されているとはいえ、生理的なマイナスがあれば、競技パフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性がある。
と述べています2。
睡眠不足(Partial sleep deprivation: PSD)について
また、上で話した概日リズムだけでなく、前日の寝不足は昼間の眠気を助長すると考えられています。
この様な俗にいう睡眠不足は英語で『Partial sleep deprivation (PSD)』と呼ばれており、このPSDは多くのスポーツパフォーマンスに影響を与えると考えられています。
※文献によってはsleep restriction (SR)と表すこともあるようです。
例えば、Souissi et al. (2013)3は、柔道選手に03:00~06:00しか寝れない条件と23:00~2:00までしか寝れない条件(PSD条件)および22:30~6:00まで寝れる条件(通常の睡眠条件)の3条件を経験してもらい、それぞれの翌日の筋力やパワーといった身体パフォーマンスがどう異なるかを調査しました。
その結果、翌日の午後に測定された筋力とパワーの指標が通常の睡眠条件よりも23:00~2:00の睡眠条件で有意に低くなることを報告しました。
(※一方で、03:00~06:00の睡眠条件では、通常の睡眠条件と有意な差が確認されませんでした。この点ついての考察は今回は省力します)
また、Daaloul et al. (2018)4は、国際レベルの男子空手選手13名に23:00~3:00までしか寝れない条件(PSD条件)と7時間以上寝れる条件(通常の睡眠条件)の両方を経験してもらいました。
そしてその翌日に空手特異的な動作を用いた疲労プロトコルを行わせ、疲労して動作が継続できなくなるまでの時間を測定しました(つまり、継続時間が長いと持久力があるといった感じ)。
すると、23:00~3:00の睡眠条件では通常の睡眠条件と比較してパフォーマンスの継続時間が有意に短くなることが明らかとなりました(青線に注目)。
さらに彼らは、PSD条件では身体パフォーマンスだけに留まらず、認知機能においても通常の睡眠条件と比較して有意に低い値を示すことを明らかにしました。
以上の結果から、寝不足の条件(PSD条件)では、身体パフォーマンスや多くのスポーツにおいて重要になるであろう認知機能に対して弊害をもたらす可能性があると彼らは述べていました。
加えて、2015年に発表された睡眠とアスリートパフォーマンスに関するレビュー論文によれば、
ある一日だけ部分的な睡眠制限を設けた際には、単発でのパフォーマンス(特に最大筋力)は維持される可能性はある(結果がまちまち)が、持久力や認知機能といった能力は下がる可能性が高いようです5。
そして、少なくとも『睡眠不足によってパフォーマンスが上がる!』といった研究はほとんど見当たりません(当たり前だが)
この様な研究から、概日リズムの影響だけでなく、前日よく寝れなかったという状況では、アスリートが本来のパフォーマンスを発揮することが難しくなることが予想されます。
もちろんこれらの実験では、意図的に寝不足になるような状況を模倣していますが、
実際のアスリートでもこのような寝不足に陥る状況はよくあるかと思います。
例えば、遠征などで早朝に出発しなければいけないなどの状況では、十分に睡眠時間を確保することは難しいでしょう。
このような状況で自分の本来のパフォーマンスを発揮するためには、このPSDからもたらされる弊害をどうにかして克服する必要があるといえます。
昼寝が睡眠不足によって生じるパフォーマンスの低下を改善するのに有効?
では、睡眠不足によって自分本来のパフォーマンスが発揮できないという状況を改善するにはどうすればいいでしょうか。
ここで、1つの解決方法として挙げられるのが今回のテーマである『昼寝をとること』です。
実際にこれまで、昼寝が睡眠不足によって生じるパフォーマンス低下を改善する効果があることがいくつかの研究によって報告されています。
例えば、先程引用したDaaloul et al. (2018)4の研究では、寝不足によって生じた身体パフォーマンスが30分間の昼寝を挟むことである程度改善することを報告しています(オレンジ線に注目)。
また彼らは、身体パフォーマンスだけでなく、昼寝は認知機能の低下についても改善効果があることを明らかにしました。
さらに、Hammouda et al. (2018)は、22:30~2:30までしか寝ることのできなかった13名の被験者に対して、仮眠無し、昼間に20分間の仮眠あるいは90分間の仮眠をとる3つの条件を設け、その30分後にスプリントテストを行わせました⁶。
その結果彼らは、
仮眠無し条件よりも仮眠を設けた両条件(20分と90分仮眠)の方がスプリントパフォーマンスが高くなることを明らかにしました。
また昨年発表されたBotonis et al (2021)によるナラティブレビューでは、
昼寝は持久性パフォーマンス、無酸素性パフォーマンスそして認知的課題に対して有効な効果を持つであろうと結論付けられています⁷。
※ナラティブレビューとは、特定の分野/テーマにおける現状の知見に関する概説が含まれたもの
よって、前日の夜に十分な睡眠時間を確保できていないアスリートは昼寝を有効活用することで睡眠不足によるパフォーマンス低下を改善することが出来るかもしれません。
2.昼寝を効果的に活用するために意識するべきこと
ここまで、寝不足の状況において、昼寝は有効であることを話してきました。
しかし、ただ闇雲に昼寝をとるだけでは実際にパフォーマンスを改善することはできない可能性があります。
そこで次のセクションからは昼寝を効果的に活用する上で意識しておくべきことを挙げていきます。
仮眠時間について
まず最初に、どれだけの仮眠時間がパフォーマンスを改善するのに有効なのかについて話していきます。
ここでは3つの論文を紹介していきます。
まず1つ目は先程紹介したHammouda et al. (2018)⁶が行った研究です。
改めて説明すると、
彼らは22:30~2:30までしか寝ることのできなかった13名の被験者に対して、仮眠無し、昼間に20分間の仮眠あるいは90分間の仮眠をとる3つの条件を経験してもらい、その30分後にスプリントテストを行わせました。
その結果、両仮眠条件ともに仮眠無し条件よりもスプリントパフォーマンスが高くなったのですが、90分間の仮眠が設けられた条件は20分間の仮眠が設けられた条件よりもさらに高いパフォーマンスを発揮することを明らかにしました。
また、Boukhris et al. (2019)は、仮眠無し条件と仮眠時間が25分、35分そして45分の計4条件を設け、その2時間後に実施された5mシャトルランのパフォーマンスにもたらす効果を検証しました⁸。
その結果、おおよそ全ての仮眠条件は仮眠無し条件よりも高いパフォーマンスを発揮することが明らかとなりましたが、その中でも、45分間の仮眠が設けられた条件はその他2つの仮眠条件よりもより高いパフォーマンスを発揮することが示されました。
さらに、先程紹介したBotonis et al (2021)によるナラティブレビューでは、総合的にみて比較的長い仮眠時間(30~90分)の方が短い仮眠時間(20~30分)よりもパフォーマンスを高めるのに有効であると結論付けています⁷。
以上のことから、もし時間が確保できるのであれば、睡眠時間は長くとった方がパフォーマンスを改善するのに有効かもしれません。
睡眠慣性(sleep inertia)に気をつけよう!
しかし、昼寝を活用する際には注意しなくてはいけないことがあります。
それが『睡眠慣性(sleep inertia)』というものです。
これはつまり、仮眠から起きた後のボーっとする感じの現象を指しています。
これは僕も含めておそらく皆さんも経験したことがあるのではないでしょうか?
一般的に、この睡眠慣性が生じている時間帯ではパフォーマンスは変化しないか、むしろ低下する恐れもあると考えられています。
したがって、昼寝を用いてパフォーマンスを改善させる際にはこの睡眠慣性を避ける必要があります。
そしてこの睡眠慣性は、仮眠時間が長くなると起こりやすいことが知られています。
先程は仮眠時間が長い方がパフォーマンスを改善させるのに良いと話しましたが、一方で長すぎても睡眠慣性が出やすくなってしまってパフォーマンスが低下する恐れもあるようです。
では、この睡眠慣性を避けながらも昼寝の効果を得るためにはどのような戦略をとる必要があるのでしょうか?
1つ目に挙げられるのは、
『仮眠を終えてから実際の競技が始まるまでに十分に長い時間を確保する』
という戦略です。
Botonis et al (2021)は、仮眠時間が短い場合には最低でも30分間の時間間隔を空け、
仮眠時間が比較的長い場合には2時間以上空けることで、睡眠慣性の影響を取り除くことが出来るであろうと述べています⁷。
ただ、この方法だと、
「そんなに長い時間確保できないよ!」
っていうアスリートも出てくるかもしれません。
そこで睡眠慣性を避けながら、昼寝の効果を得るもう1つの方法が
『仮眠時間を10~20分程度に抑える』
というものです。
これついては、Hilditch et al. (2017)が睡眠慣性についてまとめたレビューによれば、
10~20分程度の仮眠時間であれば、睡眠慣性の影響を最小限に抑えながらも昼寝の効果を得ることが出来る可能性があると述べています⁹。
したがって、時間の制限のあるアスリートが僅かな隙間時間に昼寝の効果を得たい場合には、このような10~20分程度の昼寝をとるのが好ましいかもしれません。
ただ、1点だけ注意点があるとすれば、前日の睡眠時間が短い人ほど、睡眠慣性は出やすいと考えられており、Hilditch et al. (2017)は寝不足の人の場合、10~20分程度の短い睡眠時間であっても睡眠慣性が出る可能性があると述べていました⁹。
したがって、2つ目の戦略をとる際には前日の自分の睡眠時間を頭に入れながら、昼寝を導入するのが良いでしょう。
20220301 追記
睡眠慣性を避けながら昼寝の効果を得る戦略として、『90分間程度の睡眠をとる』という方法もあるようです10。
なぜこれが睡眠慣性を避けることが出来る可能性があるかというと、
睡眠というのはレム睡眠(比較的浅い眠り)とノンレム睡眠(比較的深い眠り)の繰り返しから構成されますが、レム睡眠での目覚めは浅い眠りからの起床ということもあって目覚めが良くなる傾向があるようです。
そしてレム睡眠とノンレム睡眠の一回の周期は大体90分程度といわれており、就寝してからちょうど90分後というのはちょうどレム睡眠の時間帯である可能性が高いようです。
したがって、レム睡眠の時間帯を狙って起きる90分間の昼寝は睡眠慣性を比較的発生させにくいとのことでした。
まとめ
今回は昼寝というテーマについて話してきました。
以下今回のまとめです。
- 睡眠不足に陥ると、翌日の身体パフォーマンスや認知機能が低下する可能性がある
- 昼寝は睡眠不足に伴うパフォーマンスの低下を改善する可能性がある
- 昼寝は長い時間とった方が効果が高い可能性がある
- 長い仮眠をとる際には睡眠慣性に気を付ける必要がある
また、昨年Br J Sports Medから睡眠不足に陥りやすいアスリートはどのようにして睡眠問題を克服していくべきかを解説したレビュー論文が発表され11、僕自身も非常に勉強になり、僕のTwitterでも紹介したのでそちらも興味があればご覧ください!
昨年Br J Sports Medで発表されたアスリートと睡眠についての論文が個人的に勉強になったので紹介https://t.co/USOgQQz2Uv
アスリートは様々な理由から睡眠不足に陥りやすいといわれてますが、その問題を克服するための考え方がいくつか紹介されていて面白いです興味のある方は是非読んでみて下さい pic.twitter.com/W9KYLGeML9
— 中田 開人 Kaito Nakata / PT CSCS (@kaito_stpt) February 28, 2022
睡眠不足で困ってるアスリートの皆さんは昼寝を効果的に活用して、試合で最高のパフォーマンスを発揮しましょう!
以上で今回の記事は終わります。
ではまた!
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追伸
修論関連のやることは全て終了し、残すは卒業式のみ!
といいたいところですが、また一つ実験することになり、今はその実験を毎日やっているといった感じです。
なぜやることになったかというと、今修論の論文は国際誌に挑戦中なのですが、2年間で論文1つだけってなんか寂しいなと思い、2月は割と暇なので急遽もう一つ実験やろう!ということになりました。
終わるか心配ですがなんとか予定組んで頑張ります(笑)
また、有難いことに3月の卒業式で大学院生代表として謝辞を話す役をいただきました。
実は入学式でもお話はいただいており話す内容も決まっていたのですが、その時はちょうどコロナが流行り始めたばかりのときで入学式自体も中止となり、まぼろしの宣誓となってしまいました(笑)
せっかく頂いた機会ですので、卒業式はなんとか行われることを祈っています。
参考文献
- Dinges DF et al. (1987). Temporal placement of a nap for alertness: contributions of circadian phase and prior wakefulness. Sleep. 10(4), 313-329.
- Monk TH. (2005). The post-lunch dip in performance. Clin Sports Med. 24(2)e15-xii.
- Souissi N et al. (2013) Effects of time-of-day and partial sleep deprivation on short-term maximal performances of judo competitors. J Strength Cond Res. 27(9), 2473-2480.
- Daaloul H et al. (2019). Effects of Napping on Alertness, Cognitive, and Physical Outcomes of Karate Athletes. Med Sci Sports Exerc, 51(2), 338–345.
- Fullagar HH et al. (2015). Sleep and athletic performance the effects of sleep loss on exercise performance, and physiological and cognitive responses to exercise. Sports Med. 45(2), 161-186.
- Hammouda et al. (2018). Diurnal napping after partial sleep deprivation affected hematological and biochemical responses during repeated sprint. Biol Rhythm Res, 49(6), 927-939.
- Botonis PG et al. (2021). The impact of daytime napping on athletic performance - a narrative review. Scand J Med Sci Sports, 10.
- Boukhris O et al. (2019). Nap Opportunity During the Daytime Affects Performance and Perceived Exertion in 5-m Shuttle Run Test. Front Physiol. 10, 779.
- Hilditch CJ et al. (2017). A review of short naps and sleep inertia: do naps of 30 min or less really avoid sleep inertia and slow-wave sleep?. Sleep Med. 32, 176-190.
- Souabni M et al. (2021). Benefits of Daytime Napping Opportunity on Physical and Cognitive Performances in Physically Active Participants A Systematic Review. Sports Med. 51(10), 2115-2146.
- Walsh NP et al. (2021). Sleep and the athlete: narrative review and 2021 expert consensus recommendations. Br J Sports Med. 55, 356-368.