その他 傷害予防 減速能力

15|水平方向の減速動作について考えてみる(基礎知識編)

今回は競技中の減速動作について話してきたいと思います。

 

減速動作のイメージ👇(0:50~1:01くらいが分かりやすいと思います)

1.減速動作って何??

最初のセクションでは、『そもそも減速動作とは何か??』について話していきます。

減速動作の中でも、特に水平方向の減速動作は、

 

走行中に方向転換やストップ動作を行うために、身体に生じている運動量を減らす動作1)

 

という風に言われることが多いです。

 

ここで専門用語が出てきました。

運動量って何?」

 

運動量とは物体の運動の状態を表す物理量であり、
『その物体が持つ勢い』
を意味しています。

 

つまり、運動量が大きい物体ほど減速するときに大きな力を加えて、発生している運動量に対抗する必要があります。

 

運動量は、

『運動量=質量×速度』

の計算式で求められます。

 

ここでいう質量には、実際に走ってる選手の体重(kg)を当てはめます。

 

一方で速度は、走行中の走行速度(m/s)が当てはまります。

 

つまり、同じ体重の選手でも、走行速度の速い選手の方が運動量が大きくなり(図A)、

反対に、同じ走行速度で走っている場合、体重の重い選手の方が運動量が大きいということになります(図B)。

したがって、体重が重くて走行速度の速い選手が減速動作を行う場合には、走行中に大きな運動量が発生し、その運動量に対抗して減速する必要があるため、より高い減速能力が求められます。

分かりやすいイメージとしては、
『走行速度の同じトラックと軽自動車では、トラックの方が止めるのに必要な力も大きくなる』
といった感じです。

 

少し話が逸れましたが、減速動作とはこの運動量を減らすために行われる動作のことをいい、水平方向の減速動作では運動量を素早く減らすために、短い接地時間の間に高い減速力を生み出す必要があります。

 

2.スポーツ場面で減速動作は頻繁に起こる

次に、上で説明した減速動作が実際の競技中でどれだけ重要な役割を持っているかについて話していきます。

 

Harper et al.2)によれば、サッカーの1試合中に身体を加速させる場面は平均して16~39回起こり、

一方で、減速させる場面というのは43~54回も起こるようです。

 

約2∼3倍の頻度です。

これって結構以外じゃないですか??

 

加速動作ってパフォーマンスに直結するイメージがあって、そっちばかり注目されてる印象ですが、頻度だけ見ると減速動作の方が多いようです。

もちろん加速動作と同様、減速動作もパフォーマンスと大きく関係しているといわれています。

 

Harper et al.3)

Rapid horizontal decelerations occur frequently in team sports competitive match play, and are crucial to successful performance outcomes when sudden changes in velocity are required to successfully evade or pursue opponents
急激な水平方向の減速動作はチームスポーツの競技試合のプレーで頻繁に発生し、相手から回避したり相手の追跡を成功させるような速度の急激な変化が必要な場面で、パフォーマンスの成果を上げるために重要となる

 

と述べています。

 

でもこれはなんとなく想像つきますよね。

僕もバスケットボールとアイスホッケーをこれまでやってきましたが、急激な方向転換をして相手を突き放す、あるいはかわすことはめちゃめちゃ大切だと実感してきました。

 

まとめると、急激な方向転換やストップ動作が頻繁に行われるスポーツでは加速能力だけでなく、減速能力も同時に向上させておく必要があると考えられます。

 

3.減速動作と傷害発生の関係性

最後に、減速動作と傷害発生の関係性について話していきます。

 

減速動作は、一般的に傷害が起こりやすい動作であると考えられています。

そもそも減速動作は、身体に生じている運動量を限られた時間内に素早く減少させなくてはいけないため、身体に負荷がかかりやすい動作です。

減速動作中に発生する傷害の例として前十字靭帯(ACL)損傷が挙げられます。

方向転換やカッティングを伴う減速動作は、膝の外反モーメントが大きくなることでACLに大きな負担がかかり、ACL損傷を引き起こす可能性が高いとされています4)

 

そのため、ACLを含む非接触性傷害を予防する目的で、減速時にかかる負荷に耐えるためのトレーニングを積むことは重要であると考えられます。

 

また、減速動作では、主に大腿四頭筋などの下肢筋群に高強度の伸張性負荷が生じると考えられています。

※伸張性収縮👉筋が力発揮しながら引き伸ばされる収縮様式のこと(例:ダンベルをゆっくりと降ろすアームカール)

 

伸張性収縮は、筋損傷を引き起こしやすい収縮様式と考えられており、頻繁に伸張性収縮が行われた場合には、その筋に筋肉痛を伴うことが多いです。

したがって、減速動作が試合中に繰り返されて行われた場合、下半身(特に大腿四頭筋)に筋肉痛が生じることが予想されます。

 

実際にこれまで、

試合中での高強度減速動作の回数クレアチンキナーゼ値(筋損傷の間接的マーカー)との間に、正の相関関係が確認されています(減速動作の回数が多いほど筋損傷が起こりやすい5)

 

競技パフォーマンスと傷害発生の面から考えると、減速動作で生じる筋損傷は最小限に抑えたいです。

というのも、

筋損傷が生じた状態で試合に臨んだ場合、本来のパフォーマンスが発揮できないだけでなく、協調性の低下などから上で述べたような非接触性傷害を含む傷害発生のリスクが高くなるといわれています1)

そのため、シーズン中などで試合が短い期間内で集中している場合には、事前に著しい筋損傷を防ぐためのトレーニングを行っておく必要があるでしょう。

 

ここまで、減速動作では怪我が発生しやすいという話をしてきましたが、

もう一つ重要な点として、

加速能力が高いけど減速能力が低い人というのは、怪我をする可能性も高くなるといわれています。

加速能力が高い人というのは走行速度も速く、結果として発生する運動量も高くなることが予想されます。
しかしながら、もしこの大きな運動量に対抗するだけの減速能力をその人が持ち合わせていなければ、減速時に身体組織に対して大きな負荷がかかるため、傷害発生のリスクが高まります。

 

一方で、もし仮に減速能力が低かったとしても、加速能力が低ければ発生する運動量も低く、求められる減速能力も低くなるため、傷害発生のリスクもあまり高くならないでしょう。

 

実際にMcBurnie et al.1)は、

'do not speed up what an athlete cannot slow down'
減速できないアスリートは加速してはいけない

と厳しく警告しており、加速能力だけでなく減速能力も同時に高めることの重要性を説いています。

 

4.まとめ

今回はスポーツ場面で頻繁にみられる減速動作に関する基本知識を話してきました。

今回の記事のまとめは以下の通りです。

 

  • 減速動作とは、走っている最中に方向転換やストップ動作を行うために、身体に生じている運動量を減らす動作のこと
  • 試合で減速動作は頻繁に行われておりパフォーマンスとも深く関係している可能性がある
  • 減速動作は非接触性傷害や筋損傷を引き起こしやすい動作である

今回の記事では、具体的にどういったトレーニングをすれば減速能力を高められるかどうかまでは話しませんでしたが、近いうちにブログで書けたらと思っています。

 

それでは今回はここまでにします!

 

最近就職活動や修士論文で忙しくて投稿頻度が落ちてしまってます。。

 

なんとか空き時間を活用してブログも並行して投稿していきます💪

 

ではまた!!

 

参考文献

  1. McBurnie AJ et al. (2021). Deceleration Training in Team Sports: Another Potential 'Vaccine' for Sports-Related Injury? Sports Med. 10.1007/s40279-021-01583-x.
  2. Harper DJ et al. (2021). Relationships Between Eccentric and Concentric Knee Strength Capacities and Maximal Linear Deceleration Ability in Male Academy Soccer Players. J Strength Cond Res. 35(2), 465-472.
  3. Harper DJ et al. (2021). Drop jump neuromuscular performance qualities associated with maximal horizontal deceleration ability in team sport athletes. Eur J Sport Sci. 1-12.
  4. Alentorn-Geli E et al. (2009). Prevention of non-contact anterior cruciate ligament injuries in soccer players. Part 1 Mechanisms of injury and underlying risk factors. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 17, 705-729.
  5. Varley I et al. (2017). Association between Match Activity Variables, Measures of Fatigue and Neuromuscular Performance Capacity Following Elite Competitive Soccer Matches. J Hum Kinet. 60, 93-99.
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  • この記事を書いた人

中田 開人

PT,CSCS,MS(スポーツ科学) 早稲田大学大学院博士後期課程 1996年7月22日生まれ 北海道札幌市出身 アスリートのパフォーマンスを高める専門家(S&Cコーチ)として活動しています。

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