トレーニングプログラム作成 傷害予防

29|伸張性収縮と筋肥大の関係性について深堀していく!

本記事では、伸張性収縮がもたらす筋肥大効果について書いていきます。

伸張性収縮についてあまり詳しく知らない方は、本記事を読む前に下の記事をまずご覧ください。

1.伸張性局面only VS 短縮性局面only

筋肥大をもたらす上で伸張性局面での筋収縮は筋肥大をもたらす上で重要なのでしょうか?

これを確認するために、

純粋に『伸張性局面のみのトレーニング』『短縮性局面のみのトレーニング』を比較した研究をまず最初に紹介していきます。

 

Vikne H et al.(2006)は12週間の肘屈曲筋のトレーニングを以下の2つの群に分けて、それぞれの筋肥大適応に対する効果を検討しました¹。

A.短縮性局面のみ実施(n = 8;CON)

B.伸張性局面のみ実施(n = 9;ECC)※負荷はCONよりも高く設定

その結果、上腕二頭筋の筋横断面積は伸張性局面のみ実施した群でのみ上昇することが明らかとなりました。

 

この結果から、筋肥大の適応をもたらす上で伸張性局面の筋収縮が重要なのでは?と考えることが出来そうです。

ただ注意する点としては、こちらの研究ではECC群はCON群よりも高い負荷重量を扱ってトレーニングを実施しており、この結果が

『収縮様式の違いからくるものか』あるいは『使用した負荷重量の違いからくるものか』

が明確に明らかにされていません。

そのため、”伸張性収縮という収縮様式そのもの”の重要性を明確にするためには、伸張性局面と短縮性局面を同じ負荷重量でトレーニングした研究結果も把握しておく必要があります。

Sato S et al.(2022)は伸張性収縮のみで構成されるトレーニングと短縮性収縮のみで構成されるトレーニングのそれぞれのトレーニング効果を負荷重量を同じにして比較検討しました²。

A.伸張性収縮と短縮性収縮を両方とも実施(n = 14;CON-ECC)※CONとECCをそれぞれ30回(計60回)

B.伸張性収縮のみ実施(n = 14;ECC)※ECCのみ30回

C.短縮性収縮のみ実施(n = 14;CON)※CONのみ30回

D.トレーニング未実施(n = 11;Control)

 

その結果、CON群では肘屈曲筋の筋厚が増加しなかった一方で(+2.5%)、ECC群では有意に増加することが明らかとなりました(+9.7%)

また、この研究ではさらに面白い発見があり、

著者らは、伸張性局面と短縮性局面を両方とも実施したCON-ECC群と比較してECC群は実施したトレーニングボリュームが約半分にも関わらず、ほぼ同等の筋肥大効果がもたらされることを同時に明らかにしました。

 

この結果から、伸張性局面と短縮性局面を繰り返す運動について考えた場合、伸張性局面によってもたらされる刺激が筋肥大にとって重要である可能性が示唆されます。

 

その他にも、Schoenfeld BJ et al.(2017)³は伸張性収縮と短縮性収縮のそれぞれがもたらす筋肥大効果をメタ分析を用いて比較し、統計学的な差はないものの、伸張性収縮は短縮性収縮よりもより高い筋肥大効果をもたらす可能性があることを報告しました(10.0% vs 6.8%)

これらの研究結果を総合すると、使用重量の大小に関わらず伸張性収縮は筋肥大をもたらす上で非常に重要であることが分かります。

少なくとも、「伸張性収縮の方が短縮性収縮よりも劣る」という研究結果は今のところ見つけることができませんでした

ポイント

  • 伸張性局面の筋収縮は筋肥大をもたらす上で重要な刺激となる可能性が高い

 

2.伸張性収縮を”過負荷”で実施するとより高い筋肥大効果は望めるのか??

前の段落で伸張性収縮が筋肥大をもたらす上で重要であることを書いてきましたが、

伸張性収縮は短縮性収縮よりも高い筋力発揮が可能であることから(詳細は前回の記事)、

「伸張性局面だけ過負荷で実施すると筋肥大効果も高くなるかもしれない??」

と考えつく人は多いのではないでしょうか?

では、実際にはどうなのか?

 

Walker(2016)⁴はトレーニング熟練者に対して、両側で実施されるレッグプレスと片側で実施されるレッグエクステンションで構成された10週間のトレーニング効果を

A.短縮性局面と伸張性局面を同負荷で実施した群(TRAD群,n = 10)

B.伸張性局面を過負荷で実施した群(AEL群,n = 10)

C.トレーニングしない群(CON群,n = 8)

に分けて検討しました。

その結果、彼らはTRAD群とAEL群との間に筋肥大効果に差はないことを報告しました。

また同様に、Friedmann-Bette B et al. (2010)⁵は、片側のレッグエクステンションで実施された6週間のトレーニング効果を

A.短縮性局面と伸張性局面を同負荷で実施した群(TRAD群,n = 11)

B.伸張性局面を過負荷で実施した群(AEL群,n = 14)

に分けて検討しました。

その結果、両群とも筋肥大効果はみられたものの、群間に有意な差はみられませんでした

これらの結果から、伸張性局面を過負荷で実施した場合においても筋肥大効果に関してはさらなる付加的効果は見込めないかもしれません。

ただ、ここで一つ注意する点があります。

それはこれら二つの研究ともにレジスタンストレーニングの経験が十分にある被験者が選定されているところです。

非トレーニング経験者を対象にした研究では伸張性局面を短縮性局面よりも過負荷で行った場合では、より筋肥大が促進される”傾向”があることも報告されています⁶。

なので、対象とするアスリートのトレーニングレベルがどの程度なのかを把握しておくことも、伸張性過負荷トレーニングによる筋肥大効果を判断する上で重要かもしれません。

以上をまとめると、

ポイント

  • トレーニング熟練者の場合、伸張性局面を過負荷で実施したとしてもさらなる筋肥大効果はあまり望めないかも
  • トレーニング非熟練者であれば、伸張性局面を過負荷で実施することでさらなる筋肥大が促進される可能性はあるかもしれない

 

3.伸張性収縮によって生じる筋肥大の特徴

また、伸張性収縮によって生じる筋肥大には、短縮性収縮とは異なる興味深い特徴があります。

 

A.遠位部分の筋線維が肥大しやすい

伸張性収縮による筋肥大の1つ目の特徴として、筋の中でもより遠位側の筋が肥大するという特徴があります。

Franchi MV et al. (2014).⁷は、伸張性収縮のみあるいは短縮性収縮のみで実施される10週間の片側レッグプレストレーニングがもたらす筋肥大効果を筋肉の近位、中間、遠位部分に分けて検討しました。

その結果、短縮性収縮トレーニングでは中間位が、伸張性収縮トレーニングでは遠位部の筋がより肥大することを明らかにしました。

また実際に、筋の筋束長も伸張性収縮の方が短縮性収縮よりも増加していることが左の図から分かります。

また先程紹介したVikne H et al.(2006)¹の研究においても、伸張性収縮トレーニングによってより遠位側の筋が肥大する傾向があることが明らかとなっています。

 

この伸張性収縮に特有の筋適応は後で述べるパワー増大にとって重要な役割を担っています。

この点についてはまた次の記事で。

 

B.速筋線維の優先的な筋肥大をもたらす

また、伸張性収縮による筋肥大のもう一つ重要な特徴として、速筋線維の筋肥大が優先的に起こりやすい点が挙げられます。

 

例えば、先程のVikne H et al.(2006)¹の研究でも短縮性収縮のみを実施した群ではトレーニング前後で全体の筋横断面積に占める速筋線維の割合は変化しませんでしたが(Pre: 75.3%→Post: 75.9%;+0.6%)、

伸張性収縮のみを実施した群ではトレーニング後に全体の筋横断面積に占める速筋線維の割合が増加することが示されています(Pre: 63.9%→Post: 73.0%;+9.1%)。

 

また、”伸張性局面を過負荷で実施しない通常のトレーニング”では速筋線維の横断面積が変化しなかった一方で、”伸張性局面を過負荷で実施したトレーニング”では、TypeⅡx線維の横断面積が有意にトレーニング後に増加することもFriedmann-Bette B et al. (2010).⁵の研究によって示されており、

速筋線維の筋肥大をもたらす上で伸張性収縮が鍵を握っている可能性があります。

 

レジスタンストレーニングによって筋肥大をもたらす上で速筋線維の筋肥大は重要であることから、

伸張性収縮によって速筋線維が優先的に肥大することは筋肥大を促進する上で非常に重要であると思われます。

 

まとめ

今回の記事では『伸張性収縮』と『筋肥大』の関係性について解説してきました。

以下今回のまとめです。

ポイント

  • 伸張性局面の刺激は筋肥大をもたらす上で重要な刺激となる可能性が高い
  • トレーニング熟練者の場合、伸張性局面を過負荷で実施しても筋肥大の付加的効果はあまり望めないかも
  • 伸張性収縮ではより遠位部分の筋肥大をもたらし、筋束長増加に貢献する可能性がある
  • 伸張性収縮は速筋線維をより肥大させる刺激となり得る可能性がある

 

これで今回の記事は終わります。

次回は伸張性収縮と筋力さらには筋パワーとの関係性について話していこうと思います。

 

ではまた!!!

 

参考文献

  1. Vikne H et al. (2006). Muscular performance after concentric and eccentric exercise in trained men. Med Sci Sports Exerc. 38(10), 1770-1781.
  2. Sato S et al. (2022). Comparison between concentric-only, eccentric-only, and concentric–eccentric resistance training of the elbow flexors for their effects on muscle strength and hypertrophy. Eur J Appl Physiol.
  3. Schoenfeld BJ et al. (2017). Hypertrophic Effects of Concentric vs. Eccentric Muscle Actions: A Systematic Review and Meta-analysis. J Strength Cond Res. 31(9), 2599-2608.
  4. Walker S et al. (2016). Greater Strength Gains after Training with Accentuated Eccentric than Traditional Isoinertial Loads in Already Strength-Trained Men. Front Physiol. 7, 149.
  5. Friedmann-Bette B et al. (2010). Effects of strength training with eccentric overload on muscle adaptation in male athletes. Eur J Appl Physiol.108(4), 821-836.
  6. Friedmann B et al. (2004). Muscular adaptations to computer-guided strength training with eccentric overload. Acta Physiol Scand. 182(1), 77-88.
  7. Franchi MV et al. (2014). Architectural, functional and molecular responses to concentric and eccentric loading in human skeletal muscle. Acta Physiol (Oxf). 210(3), 642-654.
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  • この記事を書いた人

中田 開人

PT,CSCS,MS(スポーツ科学) 早稲田大学大学院博士後期課程 1996年7月22日生まれ 北海道札幌市出身 アスリートのパフォーマンスを高める専門家(S&Cコーチ)として活動しています。

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