今回はハムストリングス肉離れについて深堀し、
「どういったメカニズムで受傷することが多いん?」
であったり、
「じゃあどのようにして予防すればいいの?」
といったところまで前半後半に分けてお話ししていこうと思います.
まず前半の本記事ではハムストリングス肉離れの疫学調査に始まり、肉離れのリスク因子なども話していきます。
実はハムストリングス肉離れについては以前も一度ブログ記事を書いているんですよね(前回記事👇).
ただ、今回は前回よりも知識を何倍にもアップデートされたのでまた再度ブログ記事にまとめていこうと考えました.
前回の記事と重複する点もありますが、是非最後までご覧ください!
目次
1.ハムストリングス肉離れの疫学と重症度について
A.憎きハムストリングス肉離れ〜疫学調査〜
最初にハムストリングス肉離れがどれだけスポーツ選手を悩ませる傷害であるかについて説明していきます。
ハムストリングス肉離れはスポーツにおいて最も発生率の高い傷害の一つであると言われており、
Ekstrand J et al. (2016)はプロサッカーチームを対象にした13年間の追跡調査にて、
全選手の内、約5人の1人がハムストリングス肉離れを受傷していたことが報告されています1。
この数字だけでも、ハムストリングス肉離れがどれだけ身近なスポーツ傷害であるかがわかりますね...
また様々なスポーツ種目の中でもハムストリングス肉離れは高速スプリントを伴う種目に多発すると言われており、後でも述べますが、スプリント中の過度なハムストリングスへのストレスが主要な受傷メカニズムであると考えられています。
また、Timmins RG et al.によれば、ハムストリングスは肉離れ全体の約37%を占めているといわれており、特にハムストリングスは肉離れしやすい筋であると考えられています2。
皆さんも一度は疑問に思ったことがあるかもしれませんが、僕も
「なんで数ある筋肉の中でハムストリングスだけそんなに肉離れしやすいん??」
と疑問に思っていました。
これにはいくつか諸説があるようですが、
”2関節筋であること”、”元々の筋束長が短いこと”、”骨盤に付着し、骨盤前傾の影響を受けやすい”などが要因として挙げられるそうです。
さらに、ハムストリングス肉離れは再発率も非常に高く、全体の約12~30%が再発するといわれています3-6。
まさに憎きハムストリングス肉離れ。。。
B.ハムストリングス肉離れ重症度
次に重症度分類について話していきます。
一般的な重症度分類としてハムストリングス肉離れはⅠ~Ⅲ度まで重症度が分かれます。
Ⅰ度は筋線維部、Ⅱ度は筋腱移行部、Ⅲ度は腱性付着部の損傷とされています。
この中でⅡ度損傷が最も発生率が高く、Ⅰ度とⅢ度は比較的発生率が低いと言われています。
では各重症度で競技復帰までどれだけの期間が必要になるのでしょうか?
奥脇らによれば、平均してⅠ度は1.6週、Ⅱ度は4.9週、Ⅲ度は22.1週競技復帰まで時間を要したと述べていました7。
※Ⅱ度はさらに冠状断で分類し、1度(軽度損傷)、2度(部分損傷)、3度(完全損傷)に分かれます。それぞれの競技復帰までの期間はおおよそ2.0週、6.4週、9.8週。
これを見ると”筋線維”だけの損傷よりも”腱を含む”損傷の方が重症度は高いことが読み取れます。
実際にAskling CM et al. (2007)によれば、近位の腱を含む損傷の方が競技復帰までの期間が長いことが報告されています8。
したがって、受傷した際にお尻近くで痛みを感じる場合には重症度が高い可能性があり、競技復帰まで時間を要するかもしれません。
ポイント
- ハムストリングス肉離れは最も一般的なスポーツ傷害の一つである
- ハムストリングス肉離れの再受傷率は12〜30%と非常に高い
- 重症度はⅠ度〜Ⅲ度まであり、腱を含む損傷は競技復帰まで時間を要する
2.高速スプリントとハムストリングス肉離れとの関係性について理解しよう
先に話した通り、高速スプリント中におけるハムストリングスへの過度な伸張ストレスはハムストリングス肉離れの主要な受傷メカニズムとされています。
また、その他にもハムストリングス肉離れにはストレッチによる損傷も報告されています。9
スプリントタイプとストレッチタイプのそれぞれの特徴は以下の通りです。
ストレッチタイプでは内側ハム(半腱様筋)9が、スプリントタイプでは外側ハム(大腿二頭筋長頭)10の受傷頻度が高いようです。
また復帰期間に関しても両タイプ間には差があるようで、比較的ストレッチタイプの方が競技復帰までの時間を要することが多いようです10。
今回は一般的に受傷頻度の高いスプリント型に絞って深堀していこうと思いますが、
どうして高速スプリントではハムストリングスの肉離れが過度なストレスにさらされやすいのでしょうか?
ハムストリングス肉離れはスプリントの各局面の中でも特に、遊脚期後期での受傷が多いことが知られています。
遊脚期後期では脚が鞭のように前方に振り出され、オーバーストライドにならないように下肢後面の大殿筋やハムストリングスで減速を行う必要があり、伸張性収縮による高い力発揮が要求されます。
「ん、伸張性収縮と肉離れってどう関係しているん??」
と思った方もいるかもしれません。
実は、肉離れは伸張性収縮(伸張しながら筋が活動する)にて生じるケースがほとんどであると言われています。
つまり、ただ伸ばされているだけでなく、それと同時に筋の収縮も加わると肉離れが生じやすいと言われています。
イメージとしては、ただ単純に筋が伸ばされているだけでは外側方向にだけしか引っ張られませんが、それに筋の収縮が加わると内側からも引っ張られることになり、外側と内側の両端から引っ張られるような状態になります。
その場合、板挟みになった箇所は大きな伸張ストレスに陥りやすいことが想像できるかと思います。
実際にスプリント中における大腿二頭筋長頭の筋活動を観察した研究では、遊脚期後期での大腿二頭筋長頭の筋活動が非常に高くなることを報告しています11。
また、ここからさらに深堀し、
「どうしてスプリントタイプでは内側ハム(半腱、半膜様筋)ではなく外側ハム(大腿二頭筋長頭)で肉離れが頻発するのか?」
といった点についていくつかの研究を基に考えていきます。
一般的に肉離れは筋腱が過度な伸張ストレスにさらされた際に受傷されると考えられているため、
「スプリント中に内側ハムよりも外側ハム(大腿二頭筋長頭)がより大きく伸ばされてるのでは??」
と予想することができます。
これを実際に確かめた研究として、
Thelen et al. (2005)は、スプリントの中でも特にスイング期後期にハムストリングスが最も伸張することを報告し、さらには外側ハムは内側ハムよりも伸張の程度が大きいことを同時に報告しました12。
また、Higashihara et al. (2016)は、スプリント中の遊脚期後期において、大腿二頭筋長頭の筋長が最も伸張した遊脚期後期において筋活動も同時にピークを迎えることを報告し13、
一方で、内側ハムである半腱様筋は筋長のピークと筋活動のピークのタイミングが一致しないことを明らかにしました。
これは言い換えると遊脚期後期において大腿二頭筋長頭にてより大きな伸張性収縮によるストレスがかかっていることを示しています。
以上より、スプリント型で大腿二頭筋長頭の損傷が多い要因には、大腿二頭筋長頭が遊脚期後期にて大きく引き伸ばされ、”それと同時に”高い筋活動を伴っていることが関係していると考えられます。
参考
ちなみに、遊脚期後期にて内側ハムよりも大腿二頭筋長頭にて高い筋活動が発揮される要因について、現段階で僕が理解している内容をもとに解説します。
まず前提として、大腿二頭筋は内側ハム(半腱様筋)よりも股関節におけるモーメントアームが大きいことが知られています。
そのため、股関節を屈曲伸展させるような動きでは大腿二頭筋長頭が選択的に活動し、高い股関節トルクを生み出すのに優先的に貢献することがわかっています。
例えば、遊脚期後期だけを切り抜いた場合、過度な股関節屈曲運動を食い止めるために、大腿二頭筋長頭を優先的に活動させ引きつづく立脚期初期に備える必要があります。
さらに、遊脚期後期から立脚期初期にかけては力強い股関節伸展運動が求められ、上に述べた理由からハムストリングスの中でも特に大腿二頭筋長頭が選択的に活動することが予想されます14。
しかしながら、繰り返しになりますが、同時期には筋腱長のピークも迎えるため肉離れと隣り合わせの局面であると言えるでしょう。。。
ポイント
- ハムストリングス肉離れには大きく分けてストレッチ型とスプリント型があり、ストレッチ型では半腱様筋、スプリント型では大腿二頭筋長頭の損傷が多い
- スプリント型はスプリントの遊脚期後期の損傷が多い
- 遊脚期後期では大腿二頭筋長頭の伸張のピークと収縮のピークが同期し大きな伸張ストレスにさらされる
3.ハムストリングス肉離れのリスク因子
ここからはハムストリングス肉離れのリスク因子について話していきます。
ハムストリングス肉離れのリスク因子は大きく分けて、
「不可変的な要因」と「可変的な要因」の2種類に大別することができます。
「不可変的な要因」には加齢、受傷歴、民族などが挙げられ、
「可変的な要因」には筋力、柔軟性、疲労などが挙げられます。
本ブログではハムストリングス肉離れを予防するということをテーマにしていますので、「可変的要因」について深堀していこうと思います。
A.伸張性筋力に乏しいハムストリングスには注意せよ
ハムストリングス肉離れと筋力との間には高い関連性があることが示唆されています。
また、筋力の中でも先ほどから度々名前が出てくる筋が引き伸ばされながら収縮する”伸張性筋力”というのがハムストリングス肉離れに関連していることが知られています。
例えば、Opar et al. (2015)は、
210名のアメリカンフットボール選手を対象に、年間を通して発生した肉離れとプレシーズン前、後、シーズン中に測定されたハムストリングスの伸張性筋力との関連を調べました15。
その結果、プレシーズン前と後の時点において、
シーズン中にハムストリングス肉離れを受傷した選手は受傷しなかった選手よりもハムストリングスの伸張性筋力が低いことが明らかとなりました。
加えて、肉離れの受傷歴がある選手は受傷リスクが高いことも同時に示されましたが、
ハムストリングスの伸張性筋力が高い場合、例え受傷歴があったとしても受傷リスクが低くなることも同時に示されました。
一方で、伸張性収縮以外のそのほか収縮様式の筋力はハムストリングス肉離れと関連しているのでしょうか?
この点に関しては伸張性筋力は肉離れと関連があったものの等尺性筋力とは関連がなかったとの報告があり2、伸張性収縮特有の特徴かもしれません。
また、肉離れ自体が筋が過度に引き伸ばされた際に受傷することを考えると、
同じ伸張性収縮の中でもより筋が伸張された位置でトレーニングすることが望ましいかもしれません。
特に一度受傷すると膝伸展域での筋力が低下すると言われており、再受傷リスクの一要因として考えられています。
実際にBrockett et al. (2004)はハムストリングス受傷歴のある選手とそうでない選手の膝屈曲筋の角度‐トルク関係を調査しました16。
その結果、ハムストリングス肉離れの既往歴のある選手の受傷側は非受傷側よりもより屈曲位にて最大トルクを生成しました。
裏を返すと、ハムストリングス肉離れを一度受傷するとより膝伸展位での力発揮能力が低下する可能性があります。
以上より、伸張性収縮の中でもより伸張位で行われる伸張性収縮は有効であることが予想されます。
また、受傷後のリハビリの中で考えると、伸張性収縮で疼痛や違和感が残存している期において、
伸張位での等尺性収縮をリハビリメニューに加えることはその後のリハビリを効率的に進めていく上で望ましいかもしれません。
ポイント
- ハムストリングスの高い伸張性筋力を有している場合、肉離れ受傷リスクが低下する可能性がある
- 仮に受傷歴があったとしても、高い伸張性筋力を有する選手は肉離れリスクが低下する
- 肉離れ受傷歴のある選手は比較的伸張位での筋力が低下する
B.柔軟性に乏しいハムストリングスには注意せよ
ハムストリングスの柔軟性を高めておくことは肉離れ予防に貢献する可能性があります。
この考え方の背景には、力- 長さ関係のグラフが関係しています。
筋には力発揮をしやすい長さというのが存在し、これを専門用語では至適長といいます。
具体的には筋は短すぎても伸びすぎてても最適な力を発揮することはできないと言われています。
この中でも、特に筋が伸びすぎている状態では筋は力発揮の観点で不安定であると考えられています。
ここでいう不安定とは、同一の筋の中でも力発揮に有利な箇所とそうでない箇所が存在し、伸張されるストレスに対して脆弱である状態を指します。
力発揮に有利な箇所とそうでない箇所とはどういうことでしょうか?
一般的に筋は中央部が太く、端に行くほど細くなる構造をしていますが、
実は、筋が過度に伸ばされた状態では中央部の太い筋線維と比較して端の筋線維は伸張負荷に対する耐性が低い可能性があると考えられています。
その結果、至適長よりも伸ばされた筋長で過度な伸張ストレスにさらされた場合、
筋の中央部はその負荷に対して踏ん張ることが出来るのに対し、筋のより端の方は伸ばされる負荷に耐えられずにはじける(popする)ような状態になることがあると考えられています。
この現象は『ポッピングサルコメア仮説』と呼ばれており、肉離れの主要メカニズムの一つとして考えられています。
以上を踏まえて筋の柔軟性がある人とそうでない人を考えた場合、
筋の柔軟性がある人は、肉離れを受傷しやすい角度においても力‐長さ曲線が下降局面に比較的差し掛かっておらず、不安定な状態を避けることが出来ることが予想されます(=筋の至適長がより伸展位)。
一方で、筋の柔軟性が乏しい人は、肉離れを受傷しやすい角度に差し掛かった際に既に力‐長さ曲線が下降局面に差し掛かってしまっており、不安定な環境で伸張ストレスにさらされることになります(筋の至適長がより屈曲位)。
そのため、肉離れを予防するためには、例えば膝が伸びた状態にて
「うわぁ、めっちゃ伸ばされてる...(≒伸張ストレスにさらされやすい不安定な環境)」
ことを避ける必要があるでしょう。
実際に先ほども示した通り、肉離れを受傷したことのある選手というのは受傷歴のない選手よりも筋の至適長がより屈曲位にあることが示されており、
肉離れを受傷しやすいような伸展位での関節角度ではトルクー角度関係が下降局面に差し掛かっていることが示されています16。
(ただ、これは肉離れの結果として生じた現象かもしれないので解釈には注意が必要です)
ちなみに、柔軟性の指標の一つとして、『筋束長』というのが肉離れを予防する上で大きく関連するというのが言われています。
筋束長とは、腱膜に対して走る筋線維の長さのことを表しており、大腿二頭筋長頭のような半羽状筋や腓腹筋のような羽状角では筋束は斜めに走行しています。
この筋束長と肉離れリスクに関連する報告として、Timmins RG et al. (2016)が発表した報告は重要論文の一つとして取り上げておく必要があります2。
彼らは、152名のエリートサッカー選手を対象にシーズンを通して発生したハムストリングス肉離れに対して、
シーズン前に測定した膝屈曲筋の伸張性筋力(ノルハムにて測定)と大腿二頭筋長頭の筋束長との関連を調査しました。
その結果、先程述べた伸張性筋力のみならず、筋束長も長いほどハム受傷リスクが低くなることを明らかにし、
さらには、再受傷リスクの高い受傷歴のある選手においても筋束長が長いほどその受傷リスクを大きく下げることが出来ることも同時に明らかにしました。
また、これらの結果をもとに彼らは、ハムストリングス肉離れ発生率は膝屈曲筋の伸張性筋力が10N増大するに伴い8.9%、筋束長が0.5cm増大するに伴い73.9%それぞれ減少することを示しました。
最初僕がこの論文を読んだときは、
「73.9%?!筋束長めちゃめちゃすごいじゃん!」
と思った記憶があります。(笑)
よって、肉離れ予防のために筋束長を伸ばす取り組みというのは非常に重要となりそうです。
また、Bourne MN et al. (2018)はこれらのハムの伸張性筋力と筋束長の重要性を基に非常に興味深い図を紹介してます17。
この図によれば、ハムの伸張性筋力が高い&筋束長が長い選手はハムストリングス肉離れリスクが低いことが一目瞭然です。
ポイント
- 力–長さ関係のグラフに基づくと、筋が伸張している下降局面においては筋が不安定な状況により肉離れリスクが高い
- 筋の柔軟性を担保し、筋が伸張した状態で出来るだけ力–長さ関係の下降局面に差し掛からないように対策をしておく必要がある
- 筋束長を担保しておくと肉離れ受傷リスクは低下し、高い伸張性筋力を有しているとより肉離れリスクは低下する
C.疲労状態はハムストリングス肉離れリスクを高める!?
その他にも、疲労が蓄積すると肉離れの受傷リスクが上がると言われています。
実際に、肉離れが生じた試合の経過時間を調査した研究によると、試合の後半で肉離れが発生している傾向があることが示されています4,5。
肉離れが疲労した状態で発生しやすい原因の一つには、疲労に伴い膝伸展位での伸張性筋力が低下することが挙げられています18。
繰り返しになりますが、伸張位での伸張性筋力の低下は特に肉離れ受傷リスクを高める可能性があるため、疲労に伴う膝伸展位での伸張性筋力低下はハムストリングス肉離れリスクに十分になり得ます。
また、疲労に伴いスプリント時のキネマティクスも変化することが知られています
Small K et al. (2009)は疲労プロトコルの前後でスプリントのキネマティクスを調査し、疲労プロトコル前後でスプリント時のキネマティクスが異なることを報告しました19。
具体的には、
①Take off局面での股関節伸展並びに膝関節屈曲可動域の増大
②スイング局面終盤での骨盤の前傾角度の増大
が見られました。
著者らは①に関して、股関節伸展と膝関節屈曲増大に伴い大腿直筋による弾性エネルギーの蓄積が増大し、引き続く前方へのスイング動作にて下腿分節セグメントの速度増大が生じる可能性があると述べています。
実際に下記のグラフの通り、疲労プロトコルが進むにつれて下腿分節中心の速度が増大することが観察されています。
スイング動作時の下腿分節の速度が増大すると、下腿がより高速で鞭のように振り出されることになり、膝関節伸展を制御するためにハムストリングスの高い伸張性収縮が要求されることになります。
②に関しては、ハムストリングスは骨盤前傾に伴い伸張される筋であるため疲労に伴う骨盤前傾の増大は肉離れリスク増大に貢献すると十分に考えられます。
さらに、疲労プロトコルは股関節伸展作用を同様にもつ大臀筋の疲労を引き起こし、それを代償する形でハムストリングスへの負荷が増大する可能性があると言われています。
例えば、Edouard P et al. (2018)は14名のアスリートに対して6秒間のスプリントを12本実施させ(疲労プロトコル)、1本目のスプリント中と12本目のスプリント中の下肢筋の筋活動やスプリントパフォーマンスの変数(Peak powerや水平方向の地面反力など)を調査しました20。
その結果、彼らはスイング期後期における大臀筋の筋活動が疲労プロトコル前後で有意に低下することを示しました(ハムストリングスは有意な低下が見られず)。
また、スイング期後期に観察された大臀筋の筋活動の低下はスプリントパフォーマンスを決定づける要素の一つである水平方向への地面反力の低下と有意に関連しており、
特に疲労状態の場合、大臀筋の筋活動がスプリントパフォーマンスにとって重要であることを示しました。
著者らはこれらの結果から、疲労状態に陥った場合、ハムストリングスへの過度な負荷を防ぐ目的で大臀筋が機能することが重要と述べており、
もし仮に大臀筋の筋機能低下が見られる場合には、それを代償する形でハムストリングスへの負荷が増大し肉離れリスクに貢献しうる可能性があると肉離れ受傷の一つのシナリオとして述べていました。
したがって、試合の後半に入っても特に大臀筋などの臀部の筋機能が低下しないようにトレーニングを積んでおくことは、疲労状態でのハムストリングス肉離れ受傷リスクを軽減させることができるかもしれません。
4.まとめ
ここまでの前半では主に、ハムストリングス肉離れの疫学についてやリスク因子などについて書いてきました。
以下本記事のまとめです。
- ハムストリングス肉離れは最も一般的なスポーツ傷害の一つであり、再受傷率も非常に高い
- 重症度はⅠ〜Ⅲ度まであり、特に近位腱を含む損傷はスポーツ復帰まで時間を要する
- ハムストリングス肉離れには「ストレッチ型」と「スプリント型」があり、スプリント型は遊脚期後期に頻発する
- ハムストリングス肉離れの予防可能なリスク因子として「伸張性筋力」「筋束長」「疲労」が主に挙げられる
後半の記事では
「じゃあ、実際に肉離れを予防するには何をすればいいんや?」
といった点について話していきます。
ぜひ後半も合わせてご覧ください(公開までもうしばらくお待ちください)。
参考文献
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