トレーニング負荷

37|CMJから得られる指標を選手の疲労管理の方法として活用する

ここ最近、立て続けにCountermovement jump(CMJ)についての投稿をXやブログでしていますが、一旦このブログで一区切りにしようと思います。

 

その最後の締めくくりのテーマとして、

「CMJから得られる各指標をその選手の疲労管理の方法として活用する方法」

について解説していきたいと思います。

 

CMJは測定自体の時間もそこまでかかるわけでもなく、実施することで生じる疲労というのもそこまで大きくなく日常的に測定しやすい項目の一つかと思われます。

 

そのため、CMJを選手の疲労管理の方法として上手く活用することができれば、例えば日常的なトレーニング負荷強度を決定するのを助けるかもしれません。

 

その一方で、CMJから得られる代表的な指標である”跳躍高”を選手の疲労管理の指標として用いている方は多くいらっしゃるのではないでしょうか?

 

では本当に跳躍高は選手の疲労を推定するのに適している指標なのでしょうか?

 

そうでないとしたら一体どの指標を用いるとより的確にその選手の疲労を推測することができるでしょうか?

 

今回の記事ではそういった内容を解説していきます。ぜひ最後までご覧ください!

 

1.そもそもCMJから得られる指標は信頼性が高いの?

まず初めのセクションではCMJから得られる指標の信頼性について話していきたい思います。

 

信頼性とは簡単にいうと、ある値を何度か測定した時に似た値が得られるのかどうかを表しています。

信頼性はよく下の図で表すようなダーツで解説されることが多く、

一つの箇所に多くの矢が刺さっていれば信頼性が高く

毎回放つ矢が所々に散らばっている場合は信頼性が低いということになります。

まず初めにCMJ指標の信頼性について解説する理由としては、

例えば疲労に対してCMJから得られる指標が大きく変化したとしてもその指標自体が信頼性の低い指標だった場合、

”それが疲労によるものなのか、それともそもそも変動の大きい指標で測定ごとに変動しているだけなのかを判断するのが困難”だからです。

 

一方で、例えばもし仮にその指標が信頼性の高い指標であれば、疲労プロトコル後に値の変化が生じた場合に、

その変化が主に疲労によって生じていると判断することができるかと思います。

 

では早速、CMJから得られる指標の信頼性について見ていきましょう。

Gathercole R et al.(2015)は、CMJから得られる指標が1日の中でどれだけ変動があるのか?(日内変動)あるいは日を跨いだ時にどれだけ変動するのか?(日間変動)をそれぞれ下の図の左に示したプロトコルで評価しました.

その結果、以下の図で示すような結果が得られました。

この結果から同じ日で測定された場合と日を跨いだ場合の両方のケースで、CMJから得られる指標のほとんどは高い信頼性があることということが判明しました。

 

また、Franceschi A et al.(2023)はCMJを7日間の間隔を空けて測定し日を跨いだ時の信頼性を調査しました。

その結果、先ほどのGathercole R et al.(2015)の報告と同様に概ねほとんど全ての指標で高い信頼性が得られました。

もう少し突っ込むと、Peak Powerや跳躍高のような跳躍の結果として現れる指標は時間を含む指標(RSImodや動作時間など)よりもより良好な信頼性を示しました。

ただ、それでもなお時間を含む指標も信頼性は十分に高いとのことでした。

 

以上の結果より、一般的にCMJ測定で採用されるような代表的指標は全て信頼性が高いものとして考えてよさそうです。

ポイント

  • CMJから得られる代表的な指標は全て信頼性が高い
  • 時間を含む指標(RSImodや動作時間)は跳躍高よりは信頼性は低いがそれでもなお高い信頼性を誇る

 

2.疲労プロトコル後に各CMJ指標はどのような経時的変化を示すのか?

では、本記事の本題でもある

「疲労した後に各CMJ指標はどのように変化するのか?」

について解説していきたいと思います。

Gathercole R et al.(2015)は、Yo-Yoテストを用いた疲労プロトコルを実施した0時間後、24時間後そして72時間後の各指標の経時的変化を調査しました。

その結果以下の結果が得られました。

彼らによると、跳躍高やPeak Powerのような跳躍の結果として表される指標は疲労プロトコル直後(0時間後)は低下する一方で、その24時間後には元のBaselineまで回復することが示されました。

一方で、動作時間を含む指標(跳躍時間/動作時間や伸張性局面の時間)は72時間後においても機能低下が継続して観察されていました。

この結果から、仮に跳躍高が回復していたとしても、その跳躍自体は元の跳躍方法とは少し異なった戦略(動作時間を延長して実施)で行われている可能性が考えられます。

 

さらに、その他の似た研究として、Kennedy RA et al.(2017)はCMJをBaselineとして測定した後に上半身や下半身のレジスタンストレーニングやラグビーの練習を1日行い、その翌日と翌々日にCMJを測定し各指標がどのような経時的変化を示すかを調査しました。

 

その結果以下のような結果が得られました。

こちらの研究ではPeak Powerや跳躍高は48時間後にはBaselineまで回復した一方で、動作時間が絡む指標に関しては48時間後も機能低下が残存していました。

こちらの研究も先ほどの研究と回復までの時間が多少異なるものの、概ね類似した結果が得られていると考えて良いかと思います。

つまり、跳躍高が回復した時点においても、動作時間の延長が生じているといった機能障害が残っている可能性が疲労状態では残存しているかもしれません。

 

したがって、最も一般的な測定指標である跳躍高だけではその選手に生じている神経筋疲労の状態を見過ごすことになるかもしれません。

なので、跳躍高だけでなく動作時間を含む指標を絡めて解釈した方が、その選手の神経筋疲労をより詳細に明らかにできる点で得策かもしれません。

 

また、Franceschi A et al.(2023)はサッカーの試合から30分後におけるCMJ指標のBaselineからの変化を調査しました。

 

その結果、以下の結果が得られました。

先ほどまでの結果と類似して、跳躍の結果として得られる指標である跳躍高やPeak Powerは疲労に対する感度は高くなく、それに加えて短縮性局面の指標の感度も高くないことが明らかとなりました。

 

一方で、RSImodや伸張性局面が絡む指標に関しては疲労に対する感度が高いことが示されました。

 

以上の結果を踏まえると、選手の神経筋疲労を推測するためには動作時間を含む指標や伸張性局面が絡む指標を測定項目に含めることが有効である可能性が考えられます。

ポイント

  • 跳躍高やPeak Powerなどの指標は疲労プロトコルから24〜48時間後にはBaselineまで回復する
  • 動作時間を含む指標は48〜72時間後も機能低下が残存しているケースが多い
  • 局面毎で考えた場合、特に伸張性局面が絡む指標は疲労に対する感度が高い可能性がある

 

3.じゃあ、結局どの指標を疲労管理の方法として採用したらいいんだい?

では、以上を踏まえて実際の現場でCMJを用いて疲労管理をする際にはどの指標を確認するのが良いのでしょうか??

 

これまでの結果から考えると、

跳躍高は確かに疲労プロトコルを実施した後機能低下が比較的短期間で確認されますが、

しばらくすると動作時間を延長するような戦略に切り替えることで跳躍高が維持されるような現象が観察される可能性が高まります。

これでは、実際に生じている神経筋疲労を見逃すことにつながります。

 

一方で、RSImodはどうでしょうか?

一見すると

「疲労に対する感度が高いことから選手の神経筋疲労を正確に測定することができるのでは?」

と思ってしまいそうです。

 

しかしながら一つ問題があります。

それはCMJのしゃがみ込み深さによってRSImodは大きく変化することです。

この点については以前のブログで説明しています。

 

そのため、こちらもRSImod単独では選手の神経筋疲労の程度を見逃す可能性があります。

 

ではどうしたら良いのでしょうか?

まず一つ目の解決策として、選手の跳躍方法を施行毎にバラつかないように対策しておくことが挙げられます。

具体的にはしゃがみ込み深さを毎回ある程度統一して行なってもらうなどです。

これによってRSImod単独測定で見られたような問題点は多少解消されるかと思います。

 

この方法のメリットとしては、単一の測定項目で選手の疲労状態をある程度把握できるため、

例えば、大人数を同時に測定しなくてはいけない場面で瞬時にフィードバックできるといったところでしょうか。

一方で、しゃがみ込み深さを統一するように声掛けしたとはいってもそれでもなおバラツキがゼロになるわけではなく、正確性に関しては少し疑問が残ります。

 

そこでもう一つの解決策として、様々な指標を組み合わせて総合的に判断するといった方法が有効であると考えます。

例えば、RSImodに加えてしゃがみ込み深さや跳躍高、動作時間を組み合わせて選手の神経筋疲労状態を総合的により正確に判断するといった感じです。

具体例を挙げて説明した方がわかりやすいかと思いますので、2つのシナリオをもとに一緒に考えてみましょう。

まず一つ目のシナリオとして『試合翌日のトレーニングセッション』でCMJを測定した場面を想定してみましょう。

選手Aは

  • RSImodは低下
  • 跳躍高は変化せず
  • 動作時間は長くなる
  • しゃがみ込みの深さは変化なし

という特徴がみられました。

試合翌日という状況から神経筋疲労が蓄積していることが予想されますが、選手Aは跳躍高はあまり変化しなかったものの動作時間を延長して実施しており、力積を動作時間の延長で稼ぐ方法に切り替えていることが予想されます。

一方で選手Bは

  • RSImodは変化せず
  • 跳躍高は低下
  • 動作時間は短くなる
  • しゃがみ込みの深さは浅くなる

という特徴がみられました。

一見するとRSImodが低下しておらず神経筋疲労はない?と考えてしまいそうですが、

特徴すべき点として、選手Bはしゃがみ込みが浅くなっています。

つまり選手Bはしゃがみ込みを極度に浅くした結果、動作時間が短くなりRSImodが低下しなかった可能性が高いです。

つまり両者とも神経筋疲労は抱えているものの、得られた指標はそれぞれ大きく異なっていることがわかります。

 

もう一つのシナリオとして『試合から3日後のトレーニングセッション』でCMJ測定を行なった場面を想定してみましょう。

選手AはRSImod、跳躍高、動作時間そしてしゃがみ込みの深さの指標に関して、大きな変化を示さなかったとします。

この結果から選手Aの神経筋疲労は大方抜けきっていると考えて良いかもしれません。

一方で選手Bは

  • RSImodは低下
  • 跳躍高は変化なし
  • 動作時間は長くなる
  • しゃがみ込みは深くなる

といった特徴を示しました。

跳躍高は元のベースラインまで回復したものの、動作時間の延長とそれに伴うRSImodの低下が残存しています。

そのため、選手Bに関しては3日後においても神経筋疲労が抜けきっていない可能性があります。

こちらのシナリオでは両者ともに跳躍高がベースラインに戻っている一方で、一方は神経筋疲労が抜けきり、もう一方は抜けきれていない例を示しています。

 

このように単一の指標だけでは選手の神経筋疲労を正確に推定することが困難なケースがいくつか考えられます。

そのため、できることなら多くの指標を総合的に考えて選手の神経筋疲労を推定すると良いでしょう。

参考

なお、このセクションに関してはXで池田さんとしたやり取りが参考になるかと思いますので(僕も今回のブログを書く上で参考にさせてもらいました)、興味があれば追加で是非ご覧下さい。

 

4.まとめ

今回の記事では、簡単にCMJを用いた選手の神経筋疲労の管理方法について解説しました。

 

以下本記事のまとめになります。

  • CMJから得られる代表的な指標のほとんどは信頼性の高い指標である。
  • 跳躍高やPeak Powerなどの跳躍の結果として表される指標は神経筋疲労に対する感度が低い可能性がある。
  • 動作時間を含む指標(RSImodや伸張性局面の時間 etc...)神経筋疲労に対する感度が高い可能性。
  • (可能であれば)いくつかの指標を組み合わせて測定すると、より正確に神経筋疲労を推定できる。

 

今回の記事をもってCMJに関する僕の長々としたしつこい(?)投稿の連続は一旦終えるとします。

僕自身もこの2〜3ヶ月を通して大分CMJに関して詳しくなった気がします(自画自賛←)。

もちろんこれで満足することなく、今後も必要があれば知識をアップデートしていきます!

 

皆さんもCMJに関して学びたければ以下の過去の投稿記事を是非ご覧下さい!

 

ではまた!!

 

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  • この記事を書いた人

中田 開人

PT,CSCS,MS(スポーツ科学) 早稲田大学大学院博士後期課程 1996年7月22日生まれ 北海道札幌市出身 アスリートのパフォーマンスを高める専門家(S&Cコーチ)として活動しています。

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