今回の記事は、以前Twitterでツイートさせてもらった内容について話していきたいと思います。
個人的な考えだけど、
シーズン中に速度を意識したトレーニングに固執しすぎたせいで(それだけとは言えないけど)、シーズン終わった頃にめちゃめちゃ筋力落ちてること結構ある気がするVBTで速度管理するのはいいけど、前提として筋力を落とさないように強く意識しないとすごく勿体ないと思う
— 中田 開人 Nakata Kaito (@kaito_stpt) November 10, 2021
「速度を意識したトレーニングは上手に使えば非常に有効である反面、上手く管理できないとリスクも伴う」
という点について話をしていきます。
1.シーズン終盤の失速を防ぐために
基本的にどのスポーツ、チームにおいても重要な大会などを軸にオフシーズンとシーズン中に分かれると思います。
トレーニングの目的としては、
オフシーズン:筋肥大と筋力向上
シーズン中:筋力維持(あるいは向上)とパワー向上
に大きく分かれるかと思います(もちろん指導者や置かれた環境においてこの部分は異なることもあるかと思いますが、今回はわかりやすく説明するためにこのように分けます)。
この場合、オフシーズンというのはトレーニングのそもそもの量が多いこともあって、多くの選手が比較的筋力を高めやすい時期となります。
一方で、シーズンが近づくにつれて、競技の練習時間が増え、そして疲労の蓄積を抑えるためにトレーニング量がオフシーズンと比べて少なるケースが多いかと思います。
この様な場合、シーズン中ではオフシーズンよりも筋力向上の程度は比較的低くなることが多いです。
ただ、S&Cコーチはシーズン中での筋力の低下に抗うように、出来るだけ今ある筋力が維持されるようにメニューを組むことが非常に重要になってきます。
なぜならば、競技によっては大会が何か月も続くことがしばしばあり、
もしシーズンに入り筋力が徐々に落ちていけば、
シーズン終盤になった時にはトレーニング観点でのフィットネスの部分が大きく低下していくでしょう。
この様なことになってしまうと、いわゆる「シーズン終盤の失速」につながる恐れがあります。
また、筋力というのはパワーやRFDの基盤となる重要な要素です。
そのため、シーズン中の著しい筋力低下は同時にパワーやRFDの低下を伴う可能性があり、そういった観点でもシーズン中における筋力の維持は非常に重要です。
そして、せっかくオフシーズンに高めた筋力がシーズン終盤に落ちてしまうと、オフシーズンにまた一から筋力を上げていくことになり、来シーズンに向けたスタートダッシュにも出遅れてしまいます。
したがって、
シーズン中では出来るだけ筋力の低下を抑えながら、パワー向上を目指すことが重要になります
シーズン中のトレーニング計画の例を挙げてみると、
仮に週に2回トレーニングする場合、
週の前半では比較的高重量を用いたトレーニング
(筋力維持/向上セッション)
週の後半ではパワー向上を目指すような比較的軽~中強度の重量を用いたトレーニング
(パワー向上セッション)
みたいな感じでトレーニングするとします。
(あくまでこれは1つの例であり、状況によっては上に挙げた以外の組み方もあります)
もし、このようなトレーニング計画で行う場合、週に1回の筋力維持/向上セッションでは、シーズン中の筋力低下を抑えるといった意味で非常に重要な役割を持っています。
2.VBT理論を用いた負荷強度の調節
先程まで、シーズン中の筋力維持が大切であることを主張してきましたが、
やはり速度を意識したパワー向上トレーニングも実際の競技パフォーマンスを高める上で非常に重要になってきます。
そして最近では、Velocity based training(VBT)の理論を応用したトレーニングが実際のトレーニング現場で広まってきています。
VBTとは
「レジスタンスエクササイズ中の挙上速度をモニタリングしながら負荷強度やレップ数を管理するトレーニング」
のことをいい、毎回のレップを最大挙上速度で挙げることが前提として行われます。
VBT理論を用いて毎回のトレーニングの負荷強度を決定するときに重要になってくる関係性があります。
それは、
「%1RMと挙上速度の直線的安定的関係」
です。
これは、日々の疲れや調子によってアスリートの1RM値が日々変わったとしても、
%1RMとその負荷強度での挙上速度の関係性は変わらない1,2ことを意味しています。
少し難しいので下の囲いで具体例を出して話します。
Aさん バックスクワットの1RM100kg(10月)
85kg(1RMの85%)でスクワットしたときの挙上速度→→0.6 m/s
Aさん バックスクワットの1RM110kg(12月)
92.5kg(1RMの85%)でスクワットしたときの挙上速度→→0.6 m/s
つまり、上で述べた「%1RMと挙上速度の直線的安定的関係」というのは、
絶対的な負荷強度が変化しても(85kg→92.5kg)、%1RM(例:1RMの85%)と挙上速度(例:0.6 m/s)との関係性には変化がでない(安定的)ことを意味しています。
図で表すと下のようになります。
つまり、この関係性を上手く活用すると、
毎回1RM測定をしなくてもエクササイズ中の挙上速度を管理することでその人の1RM値を大方予想することができます。
日々の疲れや調子などで1RM値は変動しやすいですが、
VBT理論を用いて毎回の挙上速度で負荷強度を管理することで、
その日の調子にあった適切な負荷強度でトレーニングを行うことが出来ます。
また、VBTでは毎回全力で挙げるということが前提として行われるので、
パワー向上を目的としたシーズンではVBTは有効なトレーニング手段の一つになるでしょう。
(VBTではその他にも重要な活用例がありますが、ここでは割愛します)
3.速度管理に固執しすぎて大きな筋力低下につながる例
上で述べた「%1RMと挙上速度の直線的安定的関係」は、
トレーニングに多くの時間を費やせず、なかなか1RM測定が行えないシーズン中などで特に活躍する理論かと思います。
実際に僕自身も、シーズンに入ると挙上速度を測りながら高重量トレーニングを指導していました。
具体的には、
「スクワットの1RMの〇%(高重量)で測定される挙上速度は~~だから、~~の挙上速度が出る強度でトレーニングするように!」
と呼びかけたりしてました。
しかし、去年と今年でVBTをシーズンを通して活用してみて思ったこととしては、
挙上速度を管理して負荷強度を決めるやり方は、団体指導のような場面では管理するのが難しい(特に高重量)
というのが個人的な感想です。
というのも、
実際のチーム指導のときに高重量トレーニングを速度を示して実施するように呼びかけても、速く挙げるのが重要という意識がどうしても出てしまい、比較的軽い重量を選択する場面が多くみられる印象を受けました。
これでは、ただでさえシーズン中はトレーニング頻度が低くて筋力が落ちやすいのに、
シーズン中に高重量を持たなくなることでさらに筋力低下が生じる可能性があります。
これは僕が指導しているときの感覚ですが、高重量を扱うセッションで軽い重量ばかりでVBTをやっている選手はあっという間に筋力が落ちていく印象があります。
小人数を相手に指導している場合は、指導者が直接管理すればいいわけで負荷の調節がしやすいかもしれません。
ただ、
「多くの人数を見なければいけない場面で1人1人の速度を管理して負荷強度を決めるのは、正直難しいな」
というのが僕が感じた感想です。
この様な状況でも速度を測ることに固執しすぎてしまうと、気づいたら筋力が大きく落ちてしまっていたということになる可能性があります。
最初の方で話したように、シーズン中の筋力維持の重要性は非常に高いです。
したがって今現在僕自身は、シーズン中の筋力維持/向上セッションではあえて挙上速度を測らないでしっかりと高重量を持ってもらうように指導しています。
また、だからといって速さを意識したトレーニングをやらないのかというわけではなく、
週のどこかでパワー向上セッションは設けるようにしますし、
速さを意識したトレーニングも少し織り交ぜながらメニューを作成します。VBTも頻繁に使用します。
あとは、試合が間近に近づいたときにはパワー向上セッションの頻度を増やしたりもします(週のどちらもパワー向上セッションなど)。
4.まとめ
今回は、速度を測りながら行うトレーニングに固執しすぎて筋力が落ちてしまう危険性について話しました。
- シーズン中の筋力維持はシーズン終盤の失速を抑える意味で非常に重要
- VBTを活用して速度管理しながら負荷強度を決める方法は、上手く管理できないと大きな筋力低下につながる可能性があるので注意が必要
もちろん、チーム指導のような対象人数の多い場合でも、速度を管理しながら負荷強度を調節できる方であれば、VBT理論を活用しても全く問題ないかと思います。
ただ、管理が難しいなと思った時には思い切って速度を測ることをやめて、
しっかりと高重量を扱ってもらうように指導した方がいいと考えています。
特に長いシーズンを戦い抜く上で、シーズン後半の失速を抑えるためにも筋力を出来るだけ維持することは非常に重要になります。
シーズン中はパワー向上に目が向きやすいですが、しっかりと土台になる筋力にも目を向けながらトレーニングするのをお勧めします。
今回も最後まで読んで下さりありがとうございます!
ではまた!
参考文献
- González-Badillo JJ and Sánchez-Medina L. (2010). Movement velocity as a measure of loading intensity in resistance training. Int J Sports Med. 31(5), 347-352.
- Sánchez-Medina L et al. (2017). Estimation of Relative Load From Bar Velocity in the Full Back Squat Exercise. Sports Med Int Open. 1(2), E80-E88.