修士論文

7|事前に行われる高強度スクワットはジャンプ力を一時的に高める!?(コンプレックストレーニングとは何か?&メカニズム編)

2021年9月29日

今回の記事は前回の続きになります。

今回はコンプレックストレーニングとは何か?そしてそのメカニズムについて簡単に話していきます。

 

コンプレックストレーニングとは

一般的にコンプレックストレーニングは、

高強度のレジスタンスエクササイズ(RT)の後に、その動作に類似したプライオメトリックスエクササイズ(PLYO)を実施するトレーニング様式”

と定義されています¹。

例えば、スクワットのようなRTの後に、スクワット動作と動きが似ているジャンプを実施するといった感じです。

(その他のコンプレックストレーニングとして、ヒップスラストの後にスプリントを実施するといったトレーニング様式もあります)

 

コンプレックストレーニングの利点としては、

事前に実施されるRTの後にPLYOを実施すると、一時的にPLYOのパワー発揮能力が向上するといわれており、PLYOを単独で実施するよりも効率的にパワー発揮能力を高めることができるところです。

 

イメージとしては、

元々の跳躍高が30 cmだったのが、スクワットを行った後に再び行うと33 cmに高まった!

みたいな感じです。

 

なぜプライオメトリックエクササイズのパフォーマンスが一時的に高まるのか?

それではなぜ、一時的にPLYOのパフォーマンスが向上するのでしょうか?

 

PAPが主なメカニズムとして考えられている

その主要なメカニズムとして前回話した活動後増強(PAP)が関与していると考えられています。

(ところが最近では、PAPの貢献度は低いのではないかという意見もあるので2,3、それについてはまた別の機会に話したいと思います)

PAPについてあまり詳しくない方は前回の記事をご覧ください。

PAPとは、

電気刺激によって誘発された単収縮トルクが事前のコンディショニング活動後に一過性に増加する現象

でした。

また、このメカニズムにはミオシン軽鎖のリン酸化が関わってると話しました。

 

実はバックスクワットのようなRTを実施した場合でも、エクササイズ中に動員された筋においてミオシン軽鎖のリン酸化が生じます

そして、RTを終えたときにはアクチンとミオシンのクロスブリッジが形成されやすい状況になっていると考えられます。

つまりコンプレックストレーニングでは、事前のRTがコンディショニング活動としての役割を果たし、クロスブリッジが形成されやすい状況を作ることで、引き続いて実施されるPLYOのパフォーマンスを高めているわけです。

 

 

 

PAPは最大筋力には効果なし!?

ここで一つの疑問が浮かびます。

「RTの後はPLYOじゃなきゃダメなの?RTの最大筋力は高められないの?」

結論から言うと、PAPは最大筋力は高めることが出来ないといわれています。

 

下の図でその理由を解説します。

 

 

図で示されるように、

細胞質遊離カルシウムイオンの濃度が高くなるにつれて、発揮できる張力は徐々に高まっていきます。

しかし、ある一定の濃度に達した後は発揮できる張力はプラトーに達し、それ以上張力は向上しません(図の★)。

この状態というのは、ほとんどのアクチンとミオシンがクロスブリッジを形成している状態なので、カルシウムイオンの感受性向上が力発揮に与える影響は限りなく小さいと考えられています。

 

なので、ミオシン軽鎖のリン酸化が生じ、カルシウムイオンの感受性が高まることで得られる恩恵というのは、

カルシウムイオンの濃度が比較的低い状態(図の2~3µm以下)で得られやすいと考えられています!

 

一般的に1RM測定や最大等尺性張力などでは、細胞質内のカルシウムイオン濃度が既に高い状態にあるので、カルシウムイオンの感受性向上による恩恵が得られにくいです。

 

一方で、PLYOのような瞬発系の動作は、細胞質内カルシウム濃度が比較的低い状態で行われるので、カルシウムイオンの感受性向上の恩恵を得られやすいです!

この様な生理学的背景もあって、一般的に用いられているコンプレックストレーニングは

高強度RT→高強度RT

ではなく

高強度RT→PLYO

で行われることが多いです。

 

まとめ

今回はコンプレックストレーニングとは何か、そしてそのメカニズムに関して話してきました。

  • コンプレックストレーニングとは、高強度RTの後にその動作に類似したPLYOを組み合わせるトレーニング様式のこと。
  • コンプレックストレーニングの主要なメカニズムにはPAPが関与していると考えられている。
  • PAPの最大筋力向上に対する効果は低いかもしれない。

 

ただ、「コンプレックストレーニングのメカニズムにPAPは関わっていないか、その貢献率は低い!」と主張する意見がここ最近になって増えてきています2,3

その点についてはまた別の記事で話しますが、今現在ではPAPが主なメカニズムとして考えられているので、今回の記事を良ければ参考にしてもらえればと思います。

 

今度コンプレックストレーニングについて書くときは、現場で使用するときの留意点について話そうと思います。

 

ではまた!

 

参考文献

  1. Ali K et al. (2017). Complex training: an update. J Athl Enhanc 6 : 3. (1).
  2. Zimmermann et al. (2020). Does postactivation potentiation (PAP) increase voluntary performance? Appl Physiol Nutr Metab, 45, 349-356.
  3. Blazevich AJ et al. (2019). Post-activation Potentiation Versus Post-activation Performance Enhancement in Humans: Historical Perspective, Underlying Mechanisms, and Current Issues. Front Physiol, 10, 1359.

 

 

 

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  • この記事を書いた人

中田 開人

PT,CSCS,MS(スポーツ科学) 早稲田大学大学院博士後期課程 1996年7月22日生まれ 北海道札幌市出身 アスリートのパフォーマンスを高める専門家(S&Cコーチ)として活動しています。

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