修士論文

6|活動後増強(PAP)について考える

今回は自分の研究内容に関わる内容について話してみます。

僕はコンプレックストレーニングの研究をしていますが、

その説明をする前段階として、関連のある活動後増強について話そうと思います。

 

内容は少し専門的ですが、図を示しながら出来るだけわかりやすく書いてみます。

(重要なところだけかいつまんで書いているので、説明が不十分なところがあるかもしれません)

 

活動後増強って何??

さんは”活動後増強”という言葉をご存じですか?

英語ではPost-activation potentiation(以下、PAP)と呼ばれています。

 

PAPの定義は、

”電気刺激によって誘発された単収縮トルクが事前の随意収縮(コンディショニング活動)後に一過性に増加する現象

とされています。

(Sale DG. (2002). Postactivation potentiation role in human performance. Exerc Sport Sci Rev, 30(3), 138-143.から引用)

 

上の画像のように、

最初の単収縮トルク(画像のTwitch)がコンディショニング活動後に、元の値よりも高まっています。

これがPAPという現象です。

 

面白いですよね。

 

ここで注意しなければいけないのは、PAPを観察するために誘発されている単収縮は
電気的に誘発されたものであるため、自分の意図とは関係なしにトルクが向上しているということです。

 

なのでPAPは自分の意志で、

「おっしゃあー!2回目頑張って力発揮するぞーー!」

みたいな感じで高まってるわけではないんです。

 

じゃあどのようにして、事前のコンディショニング活動が単収縮トルクを一時的に高めるのでしょうか?

 

PAPの主要なメカニズム

PAPのメカニズムとして、

現在ではミオシン軽鎖のリン酸化が主要な要因であると考えられています¹。

 

ミオシンはアクチンと一緒になって筋を収縮させる際に働く収縮タンパク質です。

 

コンディショニング活動を事前に行うと、ミオシン軽鎖のリン酸化が起こり、下のようにミオシンのヘッドがアクチンに近づきます

↓ミオシン軽鎖のリン酸化

なので、コンディショニング活動によってミオシン軽鎖のリン酸化が生じると、

アクチンとミオシンがクロスブリッジを形成しやすくなります(アクチンとミオシンがくっつきやすくなる)。

 

より詳細に書くと、アクチンとミオシンが近づくため、与えられたカルシウムイオンに対してクロスブリッジを形成しやすくなるということです(カルシウムイオンに対する感受性の向上)。

イメージ的には、カルシウムイオンの放出量が多少少なくてもミオシンがアクチンにくっつきやすくなるみたいな。

 

この様な背景もあって、最初の単収縮が誘発されたときよりも、コンディショニング活動後には筋が収縮しやすい状況になっているんです。

 

PAPの重要な特徴

次のセクションでは、PAPを語るうえで重要になる2つの特徴を話したいと思います。

 

PAPの程度は速筋線維の含有率に大きく左右される!

実は、PAPは速筋線維と遅筋線維で同程度発揮されるわけではないんです。

速筋線維の方が遅筋線維よりもPAPの程度が高いことが知られています²。

 

なぜか。

実は前のセッションで話したPAPのメカニズムであるミオシン軽鎖のリン酸化を促進する酵素は速筋線維に多く含まれているんです。

 

また重要なことに、速筋線維の含有率は筋力が高い人で高いので、

PAPは筋力の高い人の方が顕著に観察されます³。

 

これは僕が実際に実験してみても、やはりPAPの程度は筋力の高い人の方が大きく、再現性は高そうです。

 

PAPは持続時間は5分程度!

PAPの重要な特徴2つ目は、PAPの持続時間についてです。

 

PAPは一過性の現象という話をしましたが、

PAPが持続される時間はめちゃめちゃ短いです(笑)

その持続時間は5分程度といわれてます⁴。

5分経つとほぼPAPは消えます。

下の写真はコンディショニング活動後のPAPの時間経過を表したものです。

(Blazevich AJ et al. (2019). Post-activation Potentiation Versus Post-activation Performance Enhancement in Humans: Historical Perspective, Underlying Mechanisms, and Current Issues. Front Physiol, 10, 1359.から引用)

 

ご覧の通り、時間の経過とともにPAPの程度は急激に低下していきます。

このPAPの持続時間がコンプレックストレーニングでPAPを活用するために重要となってきます。

(最近ではPAP以外の要因もコンプレックストレーニングのメカニズムに関わってるといわれてますが・・・)

 

まとめ

今回は活動後増強(PAP)に関して、重要な点を話しました。

以下が今回のまとめです。

  • PAPとは”電気刺激によって誘発された単収縮トルクが事前の随意収縮(コンディショニング活動)後に一過性に増加する現象”のこと
  • PAPの主要なメカニズムはミオシン軽鎖のリン酸化である。
  • PAPの程度は速筋線維で大きい。
  • PAPの持続時間は5分程度しかない。

 

次回は実際にコンプレックストレーニングについて話したいと思います。

 

参考文献

1.Tillin NA and Bishop D. (2009). Factors Modulating Post-Activation Potentiation and its Effect on Performance of Subsequent Explosive Activities. Sports Med, 39(2), 147-166.

2.Hamada et al. (2000). Postactivation potentiation, fiber type, and twitch contraction time in human knee extensor muscle. Med Sci Sports Exerc, 88, 2131-2137.

3.Seitz LB et al. (2014). The temporal profile of postactivation potentiation is related to strength level. J Strength Con Res, 28(3): 706–715.

4.Vandervoort AA et al. (1983). Twitch Potentiation after Voluntary Contraction. Experimental Neurology, 81, 141-152.

この記事をSNSでシェア!
  • この記事を書いた人

中田 開人

理学療法士,CSCS 1996年7月22日生まれ 北海道札幌市出身 アスリートのパフォーマンスを高める専門家(S&Cコーチ)として活動しています。

-修士論文