スプリント関係

42|スプリントで水平方向の推進力を生み出す筋肉とは??

 

今回はスプリントで水平方向の推進力を生み出すのに貢献する筋について解説していきたいと思います。

 

スプリントをテーマにしたブログ記事はおそらく3〜4年ぶりになりますが、ちょうど自分自身がスプリントについてセミナーでお話しする機会があったので、いい機会だと思い学び直しています。

そして今回はスプリントパフォーマンス向上戦略を考える上で重要な観点の一つである”水平方向の推進に貢献する筋”について話していきたいと思います!

ぜひ最後までお付き合いください🏃‍♂️🙇‍♂️

 

1.水平方向の地面反力とスプリントパフォーマンスの関係性について

 

まず、前提として、スプリントでは特に加速局面にて水平方向の地面反力を加えることが高いスピードを獲得する上で重要であると考えられています。

 

例えば、Morin JB et al., (2012)は、国際レベルの選手を含めた13名のスプリンターを対象に、100-mパフォーマンスに関連する力学的変数について調査しました。1

その結果、彼らは加速局面におけるパフォーマンス(4秒で到達した距離)が水平方向に加えられた地面反力と関連することを明らかにし、

スプリント中に達成される最大速度に関しても、水平方向の地面反力が関連することを報告しました。

 

また、基本的には最大速度に近づくにつれて、水平方向の地面反力の割合に対して垂直方向の地面反力の割合が徐々に増加していきますが、

スプリントの競技レベルが高い選手は、この水平方向の地面反力の割合の低下率が低い(スプリントを通して水平方向の地面反力を効果的に加え続けられている)特徴を持っていることが知られています。

したがって、スプリントパフォーマンスを高める上では、より高い水平方向の地面反力を生み出しながら、その割合が低下しにくいテクニックを習得することが重要であると考えられます。

 

また、本ブログ記事では長くなるので触れませんが、垂直方向の地面反力が必要ないということではないのでご注意ください!

(脚を入れ替えながら走行するヒトにとっては最低限の垂直方向の地面反力は必要であり、特に走行速度の速い最大速度局面に近いほど垂直方向の力積を素早く獲得することは重要)

 

2.股関節伸展筋が水平方向の地面反力を生み出すのに重要?!

イメージ的には、大臀筋やハムストリングスなどの股関節伸展筋が水平方向の地面反力生成に大きく貢献しそうなイメージがあります。

 

実際に先行研究にて、大臀筋は競技レベルの高いスプリンターの方が大きいことが報告されており、2

ハムストリングスに関しても、一定期間のスプリントトレーニングによりハムストリングスが筋肥大することが報告されており、スプリントに対してハムストリングスが何かしら大きな役割を果たしている可能性がうかがえます。3

 

まず初めに大臀筋に関して詳しくみてみると、Miler R et al., (2020)は大臀筋の筋ボリュームの絶対値と体重で割った相対値の両方が100-mスプリントのシーズンベストタイムと有意に相関しており

その分散の33-43%を説明することを報告しています。2

また、ハムストリングスに関して、

Morin et al., (2015)は、「スイング期後半のハムストリングスの筋活動と膝屈曲筋の伸張性トルクを組み合わせたもの」「加速局面における水平方向の地面反力」との間に有意な関連性があることを報告しました。4

 

 

この研究からハムストリングスはスイング期後期にあらかじめ筋が力を発揮して、引き続く接地局面に備えて準備をしていることが考えられます。

また、このような事前活動はハムストリングスに限らず、大臀筋でも似た作用があると考えています。

これに関しては直接的なエビデンスがあるわけではありませんが、スイング期後期にて大臀筋の筋活動が高まることは報告されており、5

大臀筋とハムストリングスの両筋とも接地局面だけでなく、スイング期後半での働きかけによって引き続く接地局面での水平方向の地面反力に備えている可能性があると考えています。

 

3.見逃されがちな下腿三頭筋(だけどその貢献度はかなり大きい?!)

脚を後ろに伸展するという観点から、下腿三頭筋も水平方向の地面反力生成に貢献していることが予想されます。

 

「ふくらはぎの筋肉なんて、いっても対して貢献してないだろ!」

 

と突っ込まれてしまいそうですが、実はその貢献度はめちゃめちゃ大きいということが報告されています。

 

Pandy et al., (2021)は、5名のスプリンターを対象に、スプリントの加速局面(最初の19歩)にてどのように下肢筋が地面反力インパルスの生成に貢献し,身体の前方偏位を最大化させるかを検証しました。5

その結果、彼らは、加速局面における推進方向への貢献度に関して、下腿三頭筋が大臀筋やハムストリングスを含むその他の筋よりも、その貢献度が大きいことを報告しました。

 

一方で、先ほど述べた特に大臀筋の推進方向への貢献度はそこまで大きくないという結果も得られました。

 

この結果は、大臀筋などの大きな筋と比較して、足関節底屈筋が小さい筋肉であることを踏まえると意外な結果かもしれません。

 

また、特に推進方向に限って見てみると、下腿三頭筋の貢献度は加速動作の特に初期に高いことがわかります(2個前の画像より)。

加速局面の特に最初の数ステップでは、水平方向に地面反力を効果的に加えられる能力がスプリントパフォーマンスと関連しているということを踏まえると、下腿三頭筋の重要性がより強調されるかと思います。

 

したがって、もしスプリントの加速局面の強化を狙う場合には、足関節底屈筋の強化を目的としたエクササイズを取り入れることも重要かもしれません。

 

4.中臀筋も実は推進方向の加速に貢献している!

実は先ほどのPandy et al., (2021)によると、下腿三頭筋やハムストリングスほどではないが、中臀筋もある程度推進方向の力積獲得に貢献する筋であると報告されています。5

実際に彼らは、中臀筋も大臀筋やハムストリングスと同様に股関節伸展モーメントを発揮していることも明らかにしています。

 

また、Sado et al., (2020)は、

「スプリントのブロックスタート時の推進方向のパフォーマンス指標」「前脚側の股関節外転筋と後脚側の腰部側屈筋のそれぞれで発揮された機械的仕事量の合計」と関連していることを報告しました。6

この結果は、いわゆるヒップロックのような立脚側に骨盤を傾斜させて、スイング側の腰部を側屈させる前額面上の運動が推進方向の力発揮に貢献していることを示唆しています。

 

参考

では、なぜ特にスタートの局面でヒップロックを活用することが推進方向の力発揮向上に繋がるのでしょうか?

これに関しては、僕自身も明確な答えがあるわけではありませんが、

一つはスイング側を”立脚側の股関節外転筋””スイング側の腰部側屈筋”を利用してグッと上に持ち上げることは重心が上だけでなく、前方にも移動することが要因として関与していると考えています。

また、それ以外の要因としては、立脚側に骨盤を傾斜させることで脚全体のスティッフネス的な要素も高まるんじゃないかなあと想像していました。

イメージとしては、骨盤の寛骨臼に大腿骨頭がハマる感じ。それによって関節として適合性が高まり、股関節周囲筋の力発揮を効率的に行えるようになった可能性もなくはないかなと考えていました。

(あくまで個人的なイメージなので参考程度に。。)

他に「それは違うんじゃないか?〇〇が関係しているんじゃない?」などあれば是非教えてください!

 

 

以上より、中臀筋は純粋に股関節伸展方向に力を生み出す役割に加えて、ヒップロックの動きを促す役割を果たすことで水平方向の推進に貢献している可能性があると考えています。

 

まとめ

今回はスプリントに久しぶりのスプリントに関するテーマとして、水平方向の推進力を生み出すのに貢献する筋肉について話してきました。

以下、本記事のまとめになります。

  • 特に加速局面において、水平方向に地面反力を大きく加えられる能力はスプリントパフォーマンスと関連している
  • 股関節伸展筋であるハムストリングスの接地直前の伸張性筋発揮は接地後の水平方向の地面反力と関連している可能性
  • 足関節底屈筋(特に腓腹筋)は加速筋として水平方向の推進に大きく貢献する
  • 中臀筋は純粋な股関節伸展方向への力発揮ヒップロックの形成を介して水平方向の推進を補助する役割を担う可能性

個人的にはまだまだスプリントに関しては勉強中であり、今後も知識をアップデートさせていきます。

 

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それではまた!!

 

参考文献

  1. Morin J-B, Bourdin M, Edouard P, Peyrot N, Samozino P, Lacour J-R. Mechanical determinants of 100-m sprint running performance. Eur J Appl Physiol. 2012;112: 3921–3930.
  2. Miller R, Balshaw TG, Massey GJ, Maeo S, Lanza MB, Johnston M, et al. The Muscle Morphology of Elite Sprint Running. Medicine & Science in Sports & Exercise. 2020;53: 804–815.
  3. Nuell S, Illera-Domínguez VR, Carmona G, Alomar X, Padullés JM, Lloret M, et al. Hypertrophic muscle changes and sprint performance enhancement during a sprint-based training macrocycle in national-level sprinters. EJSS (Champaign). 2020;20: 793–802.
  4. Morin J-B, Gimenez P, Edouard P, Arnal P, Jiménez-Reyes P, Samozino P, et al. Sprint acceleration mechanics: The major role of hamstrings in horizontal force production. Front Physiol. 2015;6: 404.
  5. Pandy MG, Lai AKM, Schache AG, Lin Y-C. How muscles maximize performance in accelerated sprinting. Scand J Med Sci Sports. 2021;31: 1882–1896.
  6. Sado N, Yoshioka S, Fukashiro S. Three-dimensional kinetic function of the lumbo-pelvic-hip complex during block start. PLoS One. 2020;15: e0230145.
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  • この記事を書いた人

中田 開人

PT,CSCS,MS(スポーツ科学) 早稲田大学大学院博士後期課程 1996年7月22日生まれ 北海道札幌市出身 アスリートのパフォーマンスを高める専門家(S&Cコーチ)として活動しています。

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