持久系トレーニング

40|ミトコンドリアを鍛えるために持久系トレーニングはどのように行えば良いか?

今回は前回の記事に引き続きミトコンドリアに関するブログ記事を書いていきます。

 

前回の記事では、

「ミトコンドリアが持久力を高める上で重要な役割を果たしている」

ということを改めて説明させてもらいました。

 

そこで今回の記事では、

「じゃあ、ミトコンドリアを鍛えるためには実際にどのようにトレーニングするのがいいのか?」

について解説していきます。

 

前回よりも色々と論文など引用しながらお話しできればと思います!

 

1.前提となる情報を確認

ミトコンドリアを鍛えるためのトレーニングについてお話しする前に、

これから話す内容が頭に入っていきやすいように、いくつかの前提条件をまず初めにお話ししておこうと思います。

まず一つ目に、今回の記事内で登場するトレーニングは大きく分けて3種類あり、以下にまとめておきます。

 

  • 持久性トレーニング(moderate-intensity continuous training; MICT):比較的中強度で長時間運動する様式
  • 高強度インターバルトレーニング(High-intensity interval training; HIIT):比較的高強度(おおよそ最大心拍の80%以上)での運動を回復時間を挟みながら行う運動様式
  • スプリントインターバルトレーニング(Sprint interval training; SIT):最大努力の強度での運動を回復時間を挟みながら行う運動様式

 

また、これら3つの運動様式がもつ特徴の違いを2つの観点からお話ししてみようと思います。

1つ目が「運動強度」です。

上の3つの運動様式を運動強度が高い順に並べると、

「SIT>HIIT>MICT」

になるかと思います。

2つ目の観点は「トレーニング量」です。

ここでいうトレーニング量は「運動強度×運動時間×頻度」を指しています。

一般的なトレーニングで用いる「運動強度×運動時間×頻度」で上3つの運動様式をトレーニング量順に並べると、

「MICT>HIIT>SIT」

ということになります(MICTとHIITは強度や運動時間で逆転することもあり)。

なぜこれらの2つの観点についてお話ししたかというと、これからお話しするミトコンドリアの適応は、これら2つの大小によって大きく差が出てくるといわれているからです。

なので、これら2つの観点についてしっかり理解しておくことで、何がミトコンドリアの適応を引き起こす上で重要なのかを理解しやすくなります。

 

そして最後に確認しておきたいのが、ミトコンドリアの適応の種類についてです。

一言にミトコンドリアの適応と言っても、これは「ミトコンドリア量の変化」と「ミトコンドリア機能の変化」に分けられます。

ここでわざわざ2種類の適応に分けたのは、これら2つのミトコンドリアの適応はそれぞれ独立して起こると考えられており1

また、その変化を起こすのに必要になる刺激(先ほど示した、運動強度やトレーニング量)の重要度も異なると考えられているからです。

 

なので、今回の記事では、まず初めに、「ミトコンドリア量」を増やすために必要な刺激とは?についてお話しし、

その後に、「ミトコンドリア機能」を高めるために必要な刺激とは?についてお話ししていこうと思います。

 

2.ミトコンドリア量を増やすために必要な刺激とは?

 

まず初めにミトコンドリア量を増やすために必要なトレーニング刺激とは何か?という点についてお話ししていきたいと思います。

 

MacInnis MJ et al (2017)は、10名の健常男性を対象に、片脚にHIIT、反対側にMICTを2週間6セッション実施させ、トレーニング期間後のミトコンドリアに生じた適応を調査しました2

なお、この研究で注目すべき点はこれら2つのトレーニング間のトレーニング量は統一されて行われていたということです。

つまり、ここでのHIITとMICTの大きな違いはその運動強度であると言えるかと思います。

その結果、2週間のトレーニング期間後、ミトコンドリア量を反映するクエン酸合成酵素(CS)活性がHIIT側のみPreと比較して高い値を示し、

また、Post時点でMICTと比較した場合もHIIT側はMICT側よりも高い値を示しました。

したがって、ミトコンドリア量を増やすためには運動強度が重要である可能性が考えられます。

 

次に、ボリュームがかなり少ないSITとボリュームが比較的多いMICT間を比較した研究を紹介します。

Gillen JB et al (2016)は、普段トレーニングに取り組まない男性被験者をSIT群(n = 9)、MICT群(n = 10)、あるいはコントロール群(n = 6)に分け、

週3回12週間のトレーニングがミトコンドリア量に及ぼす影響を調査しました3

なおここでの各トレーニングの運動プロトコルは

 

  • SIT:最大努力での運動強度で20秒を3セット実施/セット間休息は2分間
  • MICT:最大心拍の70%程度で45分間

となっています。

 

その結果、SIT群とMICT群はコントロール群よりも高いCS活性を示し、ミトコンドリア量が12週間のトレーニングによって増加する可能性を示しました。

興味深い点として、この実験でのSIT群は1回のセッションはわずか10分程度で終了したにも関わらず、MICT群の1セッションでは、そのおよそ5倍にもあたる50分程の時間がかかっていたという点です。

つまり、

トレーニング量がイコールでないどころか、むしろめちゃめちゃ少ないボリュームでもミトコンドリア量の増加は生じる可能性

が考えられます。

 

したがって、やはり先ほどの結果同様、運動強度がミトコンドリア量を高めるために重要な刺激なのでは?と推測することができます。

 

一方で、いくつかの研究をレビューし、ミトコンドリア量を増加させるトレーニング刺激について検証したGranata C et al (2018)の報告によれば、

「トレーニング量」の増加はミトコンドリア量の増加と関連がある一方で、「運動強度」はミトコンドリア量とは関連がないことが示されています4

 

「え!さっきまで運動強度がミトコンドリア量と関係してるって言ってたじゃないか!」

 

と思う方がいるかと思います。

この結果の解釈は少し難しいですが、個人的な解釈を以下に述べます。

 

最初にも話した通り、ここでいうトレーニング量というのは「運動強度×運動時間×頻度」を表しており、運動強度という指標も含まれています。

したがって、運動時間や頻度が同じ値の場合では運動強度が高くなれば、トレーニング量全体も大きくなります。

そのため、運動強度が必ずしも関係ないかといわれるとそうではないと思います。

ただ一方で、運動強度とミトコンドリア量と関係性がなかったことから、ある程度のトレーニング量もミトコンドリア量を促進させる上で重要なのかもしれません。

 

また、Granata C et al (2018)の報告でもう一点面白い点として、レーニング量とミトコンドリア量の適応との間の関係性はSITが含まれていない方が強くなることが明らかにされている点です4

さらにいうと、SITだけでみるとトレーニング量とミトコンドリア量との間に有意な相関関係がないことも明らかになっています。

 

 

この結果は、SITがかなり少ないトレーニング量にも関わらず、ミトコンドリア量の適応を大きくもたらすことから生じていると思われます。

つまり、トレーニング量とミトコンドリア量との関係性は運動強度が<100%Wmaxにのみ当てはまる関係性であり、

SITのような超高強度トレーニングでは、トレーニング量に左右されず大きなミトコンドリア量の適応をもたらすことを示唆しているかもしれません。

ここまでをまとめてみます。

ポイント

  • <100%Wmaxの場合(MICTやHIIT)、ミトコンドリア量を増やす上で運動強度は大事だが、ある程度のトレーニング量の確保も重要になる可能性
  • >100%Wmaxの場合(SITなど)トレーニング量に左右されず、ミトコンドリア量を大きく増やす可能性

 

3.ミトコンドリア機能を高めるために必要な刺激とは?

 

では次に、ミトコンドリア呼吸機能についてお話ししていきます。

 

結論からお話しすると、ミトコンドリア機能に関しては、特に運動強度がカギを握っているということがわかっています。

Daussin FN et al (2008)は、11名の被験者を対象に、高強度のインターバルトレーニング(HIIT)と持久性トレーニング(MICT)をそれぞれ8週間クロスオーバーデザインで実施させました5

その結果、ミトコンドリア機能の増加はHIIT群のみに観察され、またそこで観察されたミトコンドリア機能の増加は持久系パフォーマンスの増加とも関連があったことを報告しました。

 

 

また、Granata C et al (2016)は、31名の被験者を持久性トレーニング群(MICT)、高強度インターバルトレーニング群(HIIT)、スプリントインターバルトレーニング群(SIT)群に群分けし、4週間のトレーニング介入がミトコンドリア呼吸機能に及ぼす影響を調査しました6

ちなみにこちらの研究では、CT群とHIIT群間のトレーニング量は統一されており、SIT群のみトレーニング量は少ないという条件で行われていました。

その結果、ミトコンドリア機能が高まったのは、SIT群のみであることが示されました。

SIT群はその他の2つの群よりもトレーニング量は明らかに少ないにも関わらず、ミトコンドリア機能を唯一高めたという結果は、運動強度がミトコンドリア機能を高める上で重要であるという事実をさらに強調していると考えられます。

 

この結果は、20報の研究論文の結果を横断的に検証した研究でも支持されており、運動強度の高いHIITやSITがMICTよりミトコンドリア機能を改善させるのに有効なトレーニングであることが示されています4

さらに、面白い結果として、トレーニング量で正規化した場合、SITが最も効率的にミトコンドリア呼吸機能を高めるために有効なトレーニングということが示されています。

 

 

したがって、まとめると以下の通りになります。

ポイント

  • ミトコンドリア機能を高めるためには運動強度がカギを握っている可能性がある
  • 高強度トレーニングの中でも、SITは時間対効果が非常に優れている可能性がある

 

4.ミトコンドリア量/機能を高めるために必要なトレーニング期間はどのくらい?

では、最後に実際にミトコンドリアの適応を発生させる上で必要なトレーニング期間はどのくらいなのか?について、

ミトコンドリア量とミトコンドリア機能に分けて解説していこうと思います。

まずミトコンドリア量に関しては、結論から言うと、

ミトコンドリア量の適応を促すには、実はそこまで多くのセッションを必要としないということがわかっています。

 

例えば、最初に紹介したMacInnis MJ et al (2017)の研究ではわずか2週間6回のセッションでミトコンドリア量の増加が生じている可能性が示唆されています2

また、HIITを数回実施し、同時にCS活性やPGC-1α(ミトコンドリア適応のマスター調節因子)タンパク質の増加程度を経時的に測定した研究によれば、

3〜7回ほどのセッションでこれらの増加はプラトーに達していることが示されています7

したがって、ミトコンドリア量を増やすという目的であれば、それほど長期間トレーニングに取り組む必要はないかもしれません。

 

一方で、ミトコンドリア機能の改善は、どのくらいトレーニングを積めば生じるのでしょうか?

 

実は、ミトコンドリア機能はミトコンドリア量ほど短期的な適応は生じずらいと言われています。

例えば、最初の方で示したMacInnis MJ et al (2017)の研究では、2週間6セッションのHIITプロトコルではミトコンドリア機能は高まらなかったことを報告しています2

 

また、その他の研究でもJacobs RA et al. (2013)は、2週間のHIITセッションでミトコンドリア機能は高まらなかったことを報告しています8

先ほどまで示していた、Daussin FN et al (2008)5やGranata C et al (2016)6の研究はそれぞれ8週間4週間でミトコンドリア機能が高まることを報告しており、これらを総合すると、

ミトコンドリア機能を高めるのはミトコンドリア量ほど簡単ではない可能性があります。

 

実際に、以下の図は、トレーニング回数毎に生じるPGC-1α mRNAの発現量とそれに伴う、PGC-1αタンパク質量、CS活性(ミトコンドリア量を反映)、ミトコンドリア呼吸機能の適応を示したものになります。

図を見てわかる通り、赤線で示したミトコンドリア量を反映するCS活性はトレーニング初期から大きく増加しているのがわかります。

したがって、先ほど示した通り、ミトコンドリア量の適応は比較的少ないトレーニングセッション数で観察される可能性があるといえるでしょう。

 

一方で、黒線で示したミトコンドリア呼吸機能の適応を見てみると、CS活性ほどトレーニング初期から大きくは増加していないのがわかります。

したがって、こちらも先ほど示した通り、ミトコンドリア機能を高めるためには比較的多くのトレーニングセッション数が必要になるのかもしれません。

 

まとめ

今回の記事ではミトコンドリア量や機能を高めるためにはどのような刺激が大事になるのか?といった話をしてきました。

 

以下まとめになります。

  • ミトコンドリア”量”を高めるためには運動強度が重要な刺激になる可能性があるが、ある程度のトレーニング量を確保する必要があるかも(SITはトレーニング量に左右されずに効果的である可能性)
  • ミトコンドリア”量”の向上は比較的短期間で生じる可能性がある
  • ミトコンドリア”機能”を高めるにはミトコンドリア量以上に運動強度がカギを握っている可能性がある
  • ミトコンドリア”機能”を高めるのに最も効率の良い(時間対効果の高い)エクササイズはSITである可能性
  • ミトコンドリア”機能”はミトコンドリア量以上に適応を起こすのに長い期間を要するかも

今回の記事を参考に、HIIT計画をより幅広い視点(中枢だけでなく、末梢もイメージする)から作成していただければと思います。

そうすることで、より理にかなった効果的なトレーニング計画を立てることができるかと思います!

では、また!!

 

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追伸

 

大学院に進学して早3ヶ月ほど経ちましたが、やっと自分の実験もスタートしました。

実験手法を決めたり、機材の使い方を覚えたりはもちろん大変ではあったのですが、何より大変だったのが被験者集めでした😂

なんとかして一定数集めることができ目標被験者数に達しそうですが、改めて実験を成し遂げることの大変さを肌で感じているところです😅

早くて1月中には終わりそうな目処が立っているので、なんとかそこまでやり抜きたいと思います!

 

あと、12/14~15に開催されるNSCAカンファレンスに参加しますので、

これを見た方の中で「自分も行くよ!」という方がいれば是非直接ご挨拶させてください!!

 

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参考文献

  1. Bishop DJ, Botella J, Genders AJ, Lee MJ-C, Saner NJ, Kuang J, et al. High-intensity exercise and mitochondrial biogenesis: Current controversies and future research directions. Physiology (Bethesda). 2019;34: 56–70.
  2. MacInnis MJ, Zacharewicz E, Martin BJ, Haikalis ME, Skelly LE, Tarnopolsky MA, et al. Superior mitochondrial adaptations in human skeletal muscle after interval compared to continuous single-leg cycling matched for total work. J Physiol. 2017;595: 2955–2968.
  3. Gillen JB, Martin BJ, MacInnis MJ, Skelly LE, Tarnopolsky MA, Gibala MJ. Twelve weeks of sprint interval training improves indices of cardiometabolic health similar to traditional endurance training despite a five-fold lower exercise volume and time commitment. PLoS One. 2016;11: e0154075.
  4. Granata C, Jamnick NA, Bishop DJ. Training-induced changes in mitochondrial content and respiratory function in human skeletal muscle. Sports Med. 2018;48: 1809–1828.
  5. Daussin FN, Zoll J, Dufour SP, Ponsot E, Lonsdorfer-Wolf E, Doutreleau S, et al. Effect of interval versus continuous training on cardiorespiratory and mitochondrial functions: relationship to aerobic performance improvements in sedentary subjects. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 2008;295: R264-72.
  6. Granata C, Oliveira RS, Little JP, Renner K, Bishop DJ. Training intensity modulates changes in PGC-1α and p53 protein content and mitochondrial respiration, but not markers of mitochondrial content in human skeletal muscle. The FASEB Journal. 2016;30: 959–970.
  7. Perry CGR, Lally J, Holloway GP, Heigenhauser GJF, Bonen A, Spriet LL. Repeated transient mRNA bursts precede increases in transcriptional and mitochondrial proteins during training in human skeletal muscle: Molecular responses during mitochondrial biogenesis. J Physiol. 2010;588: 4795–4810.
  8. Jacobs RA, Flück D, Bonne TC, Bürgi S, Christensen PM, Toigo M, et al. Improvements in exercise performance with high-intensity interval training coincide with an increase in skeletal muscle mitochondrial content and function. J Appl Physiol. 2013;115: 785–793.
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  • この記事を書いた人

中田 開人

PT,CSCS,MS(スポーツ科学) 早稲田大学大学院博士後期課程 1996年7月22日生まれ 北海道札幌市出身 アスリートのパフォーマンスを高める専門家(S&Cコーチ)として活動しています。

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