持久系トレーニング

39|持久力の向上にミトコンドリアが果たす役割とは?

今回は持久力を高める上で

 

「ミトコンドリアに着目するのも大事だよ!」

 

っていう話をしていきます!

マニアックすぎて読んでくれる人がいるか不安ですが気にせず始めていきます←

 

持久力トレーニングについて勉強している人の中で

 

「ミトコンドリアが大事だ!」

 

というイメージを持っていたりそんな話を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか?

 

ただ、

「ミトコンドリアが大事そうだとは思っているけど、どうして大事なのかはあんまし理解できてない...」

 

っていう人も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、

 

「どうしてミトコンドリアの量を増やしたり機能を高めることが持久力向上に繋がっていくのか」

 

という話しをしていきます。

どうぞ最後までお付き合いください(切実)。

 

1.有酸素性代謝はミトコンドリアで起こっている

前回の記事でも説明した通り、ヒトが運動するためには多くのATPが再合成される必要があり、このATPを再合成するルートは大きく分けて有酸素性代謝経路無酸素性代謝経路の2種類があります。

特にこの中でも有酸素性代謝経路は無酸素性代謝よりも多くのATPを生成することができるため、長い時間運動をする際には有酸素性代謝経路を効果的に働かせる必要があります。

そして、この有酸素性代謝が生じる場所こそが『ミトコンドリア』なのです。

 

 

よく持久力トレーニングを思い浮かべると、心臓から多くの酸素を出して運ぶことが大事!のようなイメージを持たれる方が多いかと思いますが、

もちろんそれは正しいのですが、一方で、いくら心臓から多くの酸素が排出されて運ばれたとしてもそれを末梢で上手く受け取って利用できなければ、

せっかく運ばれてきた酸素を有効活用することができずに、効率良く有酸素性代謝を用いたATP再合成が行われないでしょう。

 

そこで、末梢でしっかりと酸素を受け取るための能力の一つとして筋内のミトコンドリア量を増やしたりその機能を高めることが大事になってきます。

 

2.無酸素性代謝もミトコンドリアに助けられている??

 

また、有酸素性代謝だけでなく、

無酸素性代謝であるATP-PCr系解糖系もミトコンドリアと深く関係しており、ミトコンドリアの機能がこれら2つの経路を手助けしていることが知られています。

 

A.クレアチンリン酸は有酸素性代謝で生成されたATPの備蓄

ヒトがダッシュやジャンプのような高強度運動を行う場合では、必要となる酸素需要量に対して酸素供給量が間に合わなくなりやすいです。

そういった場面では、

ATP-PCr系に代表されるような無酸素性代謝によって素早くエネルギーを獲得する必要があります。

 

この中でもATP-PCr系はどの代謝系よりも素早くエネルギーを生み出しやすいため、特に上にあげたような高強度運動の際にはその重要性が比較的高いと言えます。

 

ただ一方で、ATP-PCr系で用いられるクレアチンリン酸は体内でわずかにしか貯蔵されておらず、体内に貯蔵されているクレアチンリン酸だけではものの数秒で枯渇してしまい、高強度運動を複数回実施できなくなってしまいます。

したがって、クレアチンリン酸は消費と同時に常に生成される必要があるのですが、

このときにクレアチンリン酸が生成される経路こそが有酸素性代謝なのです!

 

具体的には、ダッシュなどで多く消費されるクレアチンリン酸は有酸素性代謝(in ミトコンドリア)を用いて常に再合成され続け

特にジョグなどの比較的低強度の運動の際に多くのクレアチンリン酸が再合成されることで、球技系スポーツでダッシュやジャンプなどの高強度運動を繰り返しできるようになっています。

 

また、クレアチンリン酸の再合成速度は持久系アスリートの方が普段トレーニングに取り組まない人よりも速いことが報告されています1

この結果は、持久系アスリートにおいてミトコンドリアの含量が多いという事実と一致しており、ミトコンドリアの機能を高めることが高い強度の運動を繰り返し行うための重要な要素の一つであると捉えることができるかと思います。

 

B.解糖系で生成された乳酸はミトコンドリアで酸化される?(乳酸シャトルの存在)

また、もう一つの無酸素性代謝である解糖系で最終的に生成される乳酸も実はミトコンドリアと大きく関連があります。

一昔前まで、乳酸は解糖系の最終産物の”老廃物”というような扱いをされていましたが、

最近では乳酸は解糖系の”代謝過程”で生成される基質の一つとして認識されるようになり、

十分なエネルギーを生み出す上でなくてはならない重要な物質であることがわかっています。

 

この乳酸によってエネルギーを生み出す流れのことを”乳酸シャトル”というのですが2、軽くその詳細について解説していきます。

 

解糖系の基になる基質はグリコーゲンに代表されるような”糖”ですが、

グリコーゲンは遅筋線維よりも速筋線維に多く含まれるため、乳酸も速筋線維で多く生成されます。

 

 

そして速筋線維で生成された乳酸は乳酸輸送担体(MCT)4(MCT4)によって、血液中に放出され、

その後、血液中に放出された乳酸は全身を循環し、遅筋線維を多く含む筋肉や心臓にMCT1によって取り込まれます。

 

そして最後に、これらの組織に取り込まれた乳酸はピルビン酸に変換され、ミトコンドリア内で二酸化炭素と水に代謝されます。

 

では、このように乳酸を最終的にミトコンドリア内で代謝させることにはどのような意義があるのでしょうか?

 

前回の記事を含めて繰り返し説明していますが、有酸素性代謝は他の解糖系のような無酸素性代謝よりも多くのATPを再合成することができます。

例えば、解糖系で乳酸を生成するまでの過程ではわずか2ATPしか再合成されませんが、有酸素性代謝までステップを踏むと、さらに36ATPも再合成することができます。

 

したがって、解糖系の最終産物として乳酸を生成しているのでは、多くのエネルギー生成のチャンスを捨てていることになり非常に勿体無いのです!

なので、乳酸を最終産物とするのではなく、しっかりと最後まで代謝させることが多くのエネルギーを得る上で重要となるのです。

 

まとめると、ミトコンドリアの量や機能を高めることは無酸素性代謝(ATP-PCr系と解糖系どちらも)によるエネルギー供給を手助けしていると言えるかと思います。

 

そしてここまで、便宜上、”有酸素性”や”無酸素性”という言葉を使ってきましたが、

ヒトが運動するときは酸素がない(無酸素)という状況はあり得ないですし、

無酸素性代謝に分類されるATP-PCr系や解糖系のどちらも有酸素性代謝と深い関わりがあることを踏まえると、

すべてのエネルギー供給系が有酸素性代謝とも言えなくはない?とも考えることができるかと思います。

 

 

3.糖を節約して後半やラストスパートに強くなる?

また次は少し視点を変えて、糖の節約という観点からミトコンドリアの機能を高めることの意義をお話ししていきたいと思います。

 

ヒトがATPを生み出す上で用いる主なエネルギー源は糖質と脂質になりますが、この二つのエネルギー源は「利用しやすさ」「貯蔵量」という点で相反する関係にあると言えます。

つまり、

糖はエネルギー源として利用しやすい反面、体内貯蔵量は多くない一方で、

脂質は体内貯蔵量は多い反面、エネルギー源として用いるには少し手間がかかるという側面があります。

 

したがって、多くのエネルギーが求められる状況(運動開始直後や高強度運動時)では、利用するのに手間がかからない糖を多く利用する傾向にあります。

下の図は横軸が運動強度で縦軸がエネルギー消費量を表しますが、運動強度が低いうちは脂質による貢献度が高いのがわかりますが、ある一定の運動強度を超えると、糖の貢献度が急激に増しているのがわかるかと思います。

しかし、この糖というのは貯蔵量が少ないがために、脂質よりも不足しがちになります。

 

糖が不足した場合には、高強度運動などの糖を多く使うような運動を長く続けられないことはもちろん、低強度〜中強度の運動であっても糖からエネルギーは少なからず得ているため、後半にバテてしまうということに繋がりかねません。

 

ここまでで、

「じゃあ糖をできるだけ節約できた方がいいんだな!」

ということはお分かりいただけたかと思いますが、

じゃあどのようにして糖を節約するとよいのか?という点について話していきます(記事の内容からミトコンドリアが関係しているんだろ。と既に予想されているかもしれませんが。。)。

 

その話をする前に、事前に「乳酸性作業閾値(Lactate Threshold; LT)」について解説しておきます。

ヒトが運動するときには少なからず解糖系が働いて乳酸が生成されるのですが、ある一定の運動強度を超えると血中乳酸濃度が急激に高まる閾値があります。

この点のことをLTと呼ぶわけですが、

なぜ一定の運動強度以降に血中乳酸濃度が高まるかというと、

まず一つ目に、先ほど話した通り運動強度が高まると脂質よりも利用しやすい糖をエネルギー源として利用する傾向にあるため、糖を多く代謝した結果として乳酸が多く生成されているという理由が挙げられます。

 

そして二つ目に、高強度運動をするとより速筋線維が動員されやすくなるという理由が挙げられます。

糖であるグリコーゲンが代謝されることで乳酸が生成されるわけですが、このグリコーゲンは遅筋線維よりも速筋線維にて多く含まれており、

高強度運動で多くの速筋線維が動員され始めると、それに伴い多くのグリコーゲンが代謝され、結果として多くの乳酸が生成されるということになります。

(その他にも理由はあるがここでは割愛)

 

 

では、糖を節約するためにはこのLTをどうすれば良いかというと、トレーニング実施によってLTを右にシフトさせることが大事になってきます。

 

イメージ的には、LTが右にシフトすることで、下の図のように糖をあまり使用しないで済む運動強度の幅が広がり、脂質を多く使って運動を続けることがしやすくなります。

 

 

脂質というのは貯蔵量は多くあるので、多少沢山使ってしまったとしても糖を利用するほど疲労感には繋がりづらいことから、

LTを右へシフトさせることは後半までバテずに動き続けるという点において優位に働く可能性があります。

 

ではLTを右にシフトさせるにはどうすればいいのでしょうか?

ここで今回のテーマであるミトコンドリアが重要になってきます。

ミトコンドリア量や機能の向上は、筋の酸化能力が高まり、脂質をエネルギー源として代謝しやすくなることに繋がります

 

これはつまり、以前までは糖の利用比率が高まるような運動強度であっても、一定期間のトレーニングによって糖を”まだ”多く使わなくても済むようになり、LTも結果として右にシフトしていきます。

 

参考

なぜミトコンドリアが増えることで脂質の利用しやすくなるのかについて補足します。

ヒトは運動する時にATPをADPと無機リン酸(Pi)に分解するのでした。

この際、低い強度だと、ミトコンドリアがADPとPiを用いて再度ATPを合成します(ATPの再合成)。

一方で、運動強度が高くなり現状備えもっているミトコンドリアの量や機能だけではATPの再合成が追いつかなくなり、筋細胞内のADPとPiが処理できずに増えてきてしまいます。

実はこのATPの代謝産物であるADPやPiは解糖系を促進させる酵素であるホスホフルクトキナーゼを活性化させることがわかっており3、結果として糖の利用量が増えてしまいます。

ただ、これは逆に筋細胞内にミトコンドリアが多く含まれていれば、ATP再合成を効率良く行うことができ、ADPやPiの代謝産物の生成を抑えた結果として解糖系を抑えることに繋がります4

したがって、ミトコンドリア量を増やしたり機能を高めることは、解糖系を抑えた結果として糖の利用を抑え、最終的にはTを右にシフトさせることができます。

 

少し長くなったので以下にこのセクションのまとめを残しておきます!

 

ポイント

  • 糖は脂質よりも「利用しやすい」が「貯蔵量は少ない」
  • 糖の不足は後半のバテたり、高強度運動を長く続けられないことに繋がる
  • 糖を節約するためには筋の酸化能力を高めて、LTを右にシフトさせることが重要
  • ミトコンドリア量や機能の向上はLTを右にシフトさせ、結果として糖の節約に貢献する

 

まとめ

では、本記事をまとめます!

 

  • 多くのATPを再合成できる有酸素性代謝はミトコンドリアで行われている!
  • ATP-PCr系で利用されるクレアチンリン酸は有酸素性代謝で再合成される(ミトコンドリアとATP-PCr系は密接に関わっている)
  • 解糖系で生成された乳酸も有酸素性代謝で最終的に酸化され多くのエネルギーを生み出すことができる(ミトコンドリアと解糖系は密接に関わっている)
  • 糖を節約する上でミトコンドリア量や機能を高めることは非常に重要!

 

今回の記事で

「ミトコンドリアの機能を高めることが持久力向上にとって大事なんだな!」

と改めて認識していただければ思います。

 

「じゃあミトコンドリア量や機能を高めるためにはどうすればいいんだい!」

 

という点に関してはまた次回のブログ記事でご紹介しようと思います🙋‍♂️

 

今回は以上になります!

 

ではまた!!!

 

参考文献

  1. Takahashi H, Inaki M, Fujimoto K, Katsuta S, Anno I, Niitsu M, et al. Control of the rate of phosphocreatine resynthesis after exercise in trained and untrained human quadriceps muscles. Eur J Appl Physiol Occup Physiol. 1995;71: 396–404.
  2. Brooks GA. Intra- and extra-cellular lactate shuttles. Med Sci Sports Exerc. 2000;32: 790–799.
  3. Holloszy JO, Coyle EF. Adaptations of skeletal muscle to endurance exercise and their metabolic consequences. J Appl Physiol. 1984;56: 831–838.
  4. Smith JAB, Murach KA, Dyar KA, Zierath JR. Exercise metabolism and adaptation in skeletal muscle. Nat Rev Mol Cell Biol. 2023;24: 607–632.

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  • この記事を書いた人

中田 開人

PT,CSCS,MS(スポーツ科学) 早稲田大学大学院博士後期課程 1996年7月22日生まれ 北海道札幌市出身 アスリートのパフォーマンスを高める専門家(S&Cコーチ)として活動しています。

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