今回の記事では球技系スポーツで必要な持久力とは?という話をしていきます。
皆さんの中には、球技系競技を指導している指導者もいれば、自分自身がそういった球技に取り組んでいるという人も多くいるかと思います。
そんな中、そのような球技系競技の持久力トレーニングを指導(あるいは実践)する際に
「とりあえず走り込みや!」
であったり、
「最近、高強度インターバルトレーニング(以下HIIT)が流行っているし、それでもやってみるか...」
など考えたことがある人も多いのではないでしょうか。
もちろんそのようなトレーニングが球技アスリートの持久力向上に有効だとも思いますが、より効率的かつ効果的にトレーニング指導する上で、
「そもそも球技系の競技で必要になる持久力ってなんなのか?」
を理解しておくと、トレーニングの目的をより明確化することができ、それを高めるための効果的なトレーニングを選択することができるかと思います。
そして最終的には、ただ闇雲に実施するトレーニング計画よりも効率よく球技系競技に求められる持久力を高めることができるでしょう。
本記事はもしかすると多くの方にとっては当たり前の話かもしれません。
ただ、その当たり前のことを「なぜ?」と問いかけられたときにうまく言葉にして伝えられない方もいるかと思います。
今回の記事ではそんな方々にとってタメになるような内容を書いていければと思います。是非最後まで読んでみてください!
※なお、本記事の前提条件としてお話しする球技系スポーツは
- 試合出場時間が何分間か続くもの
- ダッシュとジョグを繰り返すような間欠的競技
であるとします。
目次
1.有酸素性代謝と無酸素性代謝について
まず初めに、本記事の大前提となる知識として有酸素性代謝と無酸素性代謝について簡単にお話しします。
ヒトは運動するときにエネルギーを利用しますが、そのときに必要になるのがATP(アデノシン3リン酸)という化合物で、
このATPがADP(アデノシン2リン酸)と無機リン酸に分解される際にエネルギーが放出されます。
したがって、ヒトが長時間運動する際には多くのATPが必要になるわけですが、体内にあるATPというのは非常に限られており、体内に貯蔵されているATPだけだと1〜2秒ほどしか運動することができないと言われています。
そのため、ヒトがスポーツなどで動き続けるためにはATPを再合成する代謝系が重要になってくるのですが、この代謝系には大きく分けて有酸素性代謝と無酸素性代謝の2種類があります。
ここで大事なのが、有酸素性代謝というのは多くのATPを再合成できるというメリットがある一方で、そのATP再合成までには多くの時間を要するデメリットがあり、
一方で、無酸素性代謝はあまり多くのATPを再合成できないというデメリットがある一方で、あまり時間をかけずにATPを再合成できるというメリットがあります。
この有酸素性代謝と無酸素性代謝のそれぞれの特徴はこの後話す内容の大前提となるので、しっかり理解しておきましょう!
2.運動強度が高い場合、無酸素性代謝に頼って多くのATPを再合成する必要がある
それではここから実際に球技系スポーツの話をしていこうと思いますが、
多くの球技系競技は高強度でのスプリントと低強度のジョグなどの運動を交互に実施する競技であると考えることができます。
このような休息を挟みながら高強度運動を実施する運動様式は間欠的運動と呼びますが、
この間欠的運動の高強度運動中には、有酸素性代謝と無酸素性代謝のどちらが主にATP再合成に貢献しているのでしょうか?
ここで、先ほどの大前提を思い出してほしいのですが、有酸素性代謝は多くのATPを再合成できる一方で、再合成するまでには多くの時間を要すると話しました。
しかし、高強度運動では短時間の内に多くのエネルギーを必要とするため、有酸素性代謝でゆっくりとATPを再合成するのではATPの補給が間に合わなくなってしまいます。
したがって、スプリントのような高強度運動では無酸素性代謝が主なエネルギー供給系として働くことになります(もちろん有酸素性代謝も働いているがその割合は比較的低い)。
一方で、単回の運動の継続時間が長くなるにつれて、全体のエネルギー供給に対して無酸素性代謝が貢献する割合は低下し、逆に有酸素性代謝が貢献する割合は増加していきます。
上のグラフは、横軸が運動の経過時間を、縦軸が必要となるエネルギーを供給するために必要となる酸素需要量を表しておりますが、
左のように運動の経過時間が短い場合では、酸素需要量に対して酸素の供給量が追いついておらず、その分を無酸素性代謝から得られたエネルギーを用いて賄っているのがわかります。
一方で、運動の経過時間が長くなるにつれて酸素摂取量も増加していき、有酸素性代謝から多くのエネルギーを得ているのがわかります1。
3.高強度スプリントが複数回実施された場合、エネルギー供給方法はどう変化する?
先ほどまでの話は単回での運動の話をしてきましたが、ここからは実際のスポーツ場面でみられるような間欠的運動中に有酸素性、そして無酸素性代謝がそれぞれどのように貢献しているかを解説していきます。
上のグラフは、全速力の6秒間スプリントを10本実施した際にスプリント中のパワー発揮がどのように変化していくのかを見たグラフになりますが、
見ての通り、スプリントを重ねるにつれて徐々にパワー発揮が低下していくのがわかります。
最後の10本目と1本目を比較すると約26%ものパワー低下が観察されています。
また彼らは同時に、1本目と10本目それぞれのスプリント中にて無酸素性代謝を活用してどれだけATPが再合成されたかを調査しました。
その結果、先ほどの解糖系(39.4 mmol/kg→5.1 mmol/kg)とATP-PCr系(44.3 mmol/kg→25.3 mmol/kg)のそれぞれがスプリント1本目と比較して10本目では貢献度が大きく低下しているのがわかります。
また無酸素性代謝トータルで表すと1本目の時が89.3 mmol/kgなのに対し、10本目では31.6 mmol/kgと、半分以上にまで低下しているのがわかります2。
この低下率は先ほど説明したスプリント後半におけるパワー出力低下の26%よりもはるかに大きな数字となっています。
つまりこの結果は後半のスプリントでは1本目の時よりも、多くのエネルギーを有酸素性代謝から得ていることを示唆しています。
イメージ的には最初のうちは無酸素性代謝でその場しのぎしていたけど、あとから大きなエネルギー合成能力を持つ有酸素系代謝が助けにきた。みたいな感じです。
これを現場レベルに落とし込むと、無酸素性代謝能力が優れている一方で、有酸素性代謝能力があまり高くないアスリートというのは最初の数本のダッシュは得意だけど、
回数を重ねてくると急激に息切れしてきて、後半にかけて高強度運動のパフォーマンスが大きく低下してしまうということになりかねません。
一方で、無酸素性だけじゃなくて有酸素性の代謝機構も優れているアスリートというのは、最初の数本だけでなく、後半になっても先ほどのアスリートよりも高い強度でのスプリントをこなせる可能性が高いと言えます。
4.ATP-PCr系も実は有酸素性代謝が元になって働いている
また、無酸素性代謝のうちの一つであるATP-PCr系で使われるクレアチンリン酸は、実は有酸素性代謝によって作られています。
ATPというのは非常に不安定な物質で体内に溜めておくのが難しい物質であると言われており、
そういった際に、有酸素性代謝で生成されたATPはADPとリン酸に分解されてエネルギーを放出し、クレアチンと結合することでクレアチンリン酸へと姿を変えます。
こうすることで、ATPを不安定な状態でミトコンドリアから放出し使用するよりも、より安定した形でエネルギーを運ぶことできるようになります。
そしてエネルギーが必要になった時には、クレアチンリン酸をクレアチンとリン酸に分解してそこで放出されたエネルギーにADPとリン酸が結びつくことでATPを簡単に再合成することができます(クレアチンリン酸に変換することで有酸素性代謝で生成されたATPを一時的に貯蔵しているイメージ)。
実際の競技場面には当てはめてみると、ダッシュのような高強度運動の際には多くのクレアチンリン酸が分解されてエネルギーを放出しています(ダッシュの際もクレアチンリン酸は生成されているが、使用量の方が多く、全体のクレアチンリン酸濃度は減少していく)。
一方で、ジョグのような低強度運動では、その間に隙をみて、クレアチンリン酸が有酸素性代謝を用いて再合成されていきます(再合成時間は約30秒~2分)。
これを踏まえると、無酸素性代謝機構のATP-PCr系も有酸素性代謝と結びつきが強いと考えることができ、高い強度での運動が繰り返し行われる球技系アスリートにとっても、有酸素性代謝能力を高めることは重要であると考えることができるかと思います。
5.まとめ
ここまでをまとめると、単発でなく、比較的長い時間試合に出続ける選手にとっては、もちろん高い出力でダッシュをするために無酸素性代謝能力も大事ですが、
それを出来るだけ長い時間維持する能力を高めるために有酸素性代謝能力も同時に高めていく必要があります。
以下、本記事のまとめになります。
- スプリントのような高強度運動では無酸素性代謝によるエネルギー供給能力が重要
- 間欠的運動のように高強度運動が繰り返し実施されると有酸素性代謝によるエネルギー供給の貢献度が徐々に増していく
- (基本的には)球技系競技のアスリートは無酸素性だけでなく、有酸素性代謝能力も高める必要があるといえる
今回は比較的基本的な話になりましたが、
追々、じゃあ実際にどういったトレーニングが有効なのか?あたりをお話しできればと思います!
ではまた!!
参考文献
- Medbø JI, Mohn AC, Tabata I, Bahr R, Vaage O, Sejersted OM. Anaerobic capacity determined by maximal accumulated O2 deficit. J Appl Physiol. 1988;64: 50–60.
- Gaitanos GC, Williams C, Boobis LH, Brooks S. Human muscle metabolism during intermittent maximal exercise. J Appl Physiol. 1993;75: 712–719.
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追伸
先日東京に引っ越してきました。
もう11月だというのにそこまで寒くない。。不思議な感覚です(最近は流石に寒くなってきましたが)。
生活が少し落ち着き、色々と今年始める挑戦に向けて準備を進めています。
今後のアナウンスを楽しみにしていてください。